らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【映画】バルトの楽園





 
今回紹介する映画は「バルトの楽園」。
「ばるとのがくえん」と読みます。

「バルト」とはドイツ語で「ひげ」を意味し、
松平健演ずる松江豊寿収容所所長やドイツ人捕虜が生やしていた髭をイメージしているそうです。
「楽園」は「らくえん」と「音楽の楽団(がくだん)」を掛けているのでしょう。

第一次大戦、日本は連合国側として、
中国にあるドイツの租借地青島で、ドイツ軍と戦いました。
結果は日本の勝利。
捕虜になったドイツ軍兵士は、日本国内の捕虜収容所に送られました。
その時の日本人とドイツ人捕虜との交流を描いた物語で、
実話に基づいています。


今月は戦争の記事をいくつか書きました。

一旦戦争に突入してしまうと、
それはどこまでも転がるところまで転がってゆき、
人間の力で止めることはできない。
そして、その間にどんな悲惨なことが起きてもおかしくない。
人々は一旦戦争が起こった時の惨たらしさを十分心に刻んで、
戦争を起こさないよう、心しなけれならない。

このようなことを申しました。


では、実際に戦争が起こってしまった場合、
そこで戦った者達は、その後をお互いに
どう生きていけばいいのでしょうか。

作品冒頭で、捕虜のドイツ軍総督と松江収容所所長が、
ベートーベンの第9のレコードを聴きながら、
非常に暗示的なことを語り合うシーンがあります。

「この曲の作曲家は、人生の途中で耳が聴こえなくなった。
しかし、耳が聴こえなくなったのは
偉大な曲を生むための試練だったのかもしれない」


最初、お互い心のうちがわからずに、疑心暗鬼の日本人とドイツ人達。
一見すると、坂東英二阿部寛扮する日本人が、
悪人というか、狭量な人間に見えるかもしれません。
しかし、これは普通の人間の正直な心のうちだったのでしょう。

当たり前です。
今まで憎しみ合い、殺し合って、戦争してきた相手なんですから。

しかし松江所長は、それらの声を収め、
黙々と自分の為すべき道を為してゆきます。

彼自身も戊辰戦争で敗れた会津藩士の末裔。
惨めに戦争に敗れ、打ちひしがれ、
内向きになってしまった人々の気持ちを、よく知っているからこそ、
勝者となった自分が、今何を為すべきか、
ということがよくわかっていたのでしょう。

この映画は、1人のスーパーマンの英雄的な行為により、
一発でお互いのわだかまりが解け、
めでたし、めでたしという作品ではありません。

収容所での、日常の些細な出来事、事件をひとつずつひとつずつ乗り越え積み重ね、
次第に互いにふれあうようになり、理解し合い、
お互いの尊厳を尊重しあい、
ラストの、ドイツ人捕虜達による、
ベートーベン交響曲第9番「歓喜の歌」へと結実しつゆきます。



歓喜

美しい神々のまばゆい光

あなたの力は再び結びつける

時の流れにより引き裂かれたものを

すべての人々は兄弟になる

あなたの優しい翼がとどまるところで

歓喜

美しい神々のまばゆい光…



ベートーベン交響曲第9番
第4楽章「歓喜の歌」より


ドイツ人捕虜の中には、そのまま日本に残り、生涯を日本で生活し、
ドイツの技術を伝えた人々もいらっしゃったとのこと。

クラシック好きの自分としては、
ベートーベン交響曲第9番が、このようなエピソードにより、
日本で初めて演奏されたということに、
深い感慨を覚えます。

記事を書くにあたり、映画のレビューを少々見ましたが、
賛否相分かれるというところでした。

映画も娯楽の1つですから、
人それぞれに、様々な見方、楽しみ方があってしかるべきだと思いますが、
自分的な映画の見方としては、
人間の見方と同じく、
細かい欠点や誤りに目を奪われ、
そのものの一番良い本質を見落としたり、見誤ったりしないように心がけています。

この映画は、人々が互いに生きてゆくために、
大事にしなければならないものを、
メッセージとして、確かに持っている作品だと感じました。

よろしかったら、是非ご覧になってみてください。