「一兵卒」田山花袋
重い装備を背負ってよろよろ歩く主人公の心の中そのものです。
意識朦朧の中で故郷や家族、戦死した同僚の事などをうっすらと思い出しますが、
現実の痛みと疲労で我に帰り、
痛みがひいてまた故郷の思い出が浮かんでの繰り返し。
足を引きずりながらただただ自分の足で歩くしかない。
実際太平洋戦争までの兵士の手記など読んでも、戦争とは歩くこととばかり。
実際太平洋戦争までの兵士の手記など読んでも、戦争とは歩くこととばかり。
南の島でも満州でも中国内地でも重い装備を背負って兵卒はただひたすら黙々歩く。
戦地では栄養もたっぷりとは摂取できませんから、ひもじい思いでただひたすら黙々と歩く。
出征時思い描いていた華やかさや勇ましさなど微塵もなくただひたすら黙々と歩く。
主人公はなんとか横になれる宿にたどり着きますが、
戦地では栄養もたっぷりとは摂取できませんから、ひもじい思いでただひたすら黙々と歩く。
出征時思い描いていた華やかさや勇ましさなど微塵もなくただひたすら黙々と歩く。
主人公はなんとか横になれる宿にたどり着きますが、
その夜病状が悪化しのた打ちまわって死んでしまいます。
そこには世に想像する栄光の戦死とはかけ離れた、
惨めで孤独でぼろぼろになった死があるだけです。
昔を回顧しながら安らかに息を引き取る安寧な死とはほど遠い、
昔を回顧しながら安らかに息を引き取る安寧な死とはほど遠い、
激しい痛み、苦しみにただひたすらもがき苦しんで死を迎えるしかない。
通常戦死というと、鉄砲玉に当たったり爆弾に当たったりというのを想像するかもしれませんが、
この作品の主人公のごとき戦病死もかなりの数にのぼり、
秋山兄弟や広瀬中佐の華々しい活躍が描かれていましたが、
大多数の下級の兵卒にとっては「一兵卒」作品の主人公のイメージの方が当たっているでしょう。
「一将功成りて万骨枯る」の言葉を持ち出すまでもありませんが、
この作品は現実の戦場における一無名兵卒の生き様死に様というべきものを
見事に描いた佳作であると思います。
青空文庫「一兵卒」