「久坂葉子の誕生と死亡」久坂葉子

この文章は久坂葉子さんが本来の川崎澄子に戻って久坂葉子という存在を論じたものです。

彼女の作品は順に「入梅」「落ちてゆく世界」「灰色の記憶」「華々しき瞬間」「幾度目かの最期」となりますが
「落ちてゆく世界」で芥川賞候補になり意欲的に「灰色の記憶」を執筆しているときが一番幸せだったようですね。
「灰色の記憶」は本人曰わく新しい女性像を模索した意欲作でしたが結局ボツになり彼女もかなりがっかりしたようです。

その後は企業の広告記事やラジオの原稿を書いたり本業以外の仕事やら恋愛やらで目まぐるしい毎日で自分を見失い、失恋やら失踪やら自殺未遂やら病気やらで糸が絡みに絡んでわけわからなくなって、最後の力を振り絞って病床で書いたのが「華々しき瞬間」。

彼女曰わく一つの存在の価値は、他の存在によってはじめて認められるのだということ試みた苦心作でしたが、これもかんばしい評価は得られず。

久坂葉子の存在が他人に評価されなかったためその価値が認められないと思ったどうかは「華々しき瞬間」未読のためなんとも言えませんが、これを機に彼女は久坂葉子をやめようと決意し、その年の大晦日に自殺してしまいます。

彼女曰わく「久坂葉子の存在のおかげで得をしたのは、映画好きの私が、試写会の招待券なるものを頂戴したにすぎない。多くの知人を得たことは、得であったようで、あまり結果的にみてよかったことはない。」


まるで芸能事務所にこき使われてプッツンしてしまったアイドルみたいです。
彼女二十歳そこそこなんですからおそらく全く同じですね。

端から見ると芥川賞候補の天才女流作家ともてはやされいつも周りに人がいて賑やかしいように見えても心の中は孤独だったというのは、似たような話もよく聞きますがかわいそうなことです。

しかしながら八木重吉や宮沢賢治その他若くして病で亡くなった人々や八木重吉の登美子夫人の生き方を知った後だと
彼女は生きるために知るべきであることを知らずして死んだと言わざるを得ない。


たくさんの有名人知識人の類とも接触があったでしょうにそういう指摘をしてくれる人が１人もいなかったのか、指摘しても彼女が通り抜けてしまったのかわかりませんがとても残念なことです。