らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【短歌俳句】いろは歌

文学でも絵画でも音楽でもそれの持つ力に触れた瞬間、
雷に打たれるようなしびれるような衝撃を受けることがあります。
自分の中のその一つが今回紹介する「いろは歌」。

当時の47音を重複させないで、全てを使って作られたという超絶技巧もさることながら、
歌の意味の無常感及びそしてなによりも、歌ではこれは非常に大事だと思うのですが、
声に出して読んだときの、
春の小川のせせらぎが、散った桜の花びらをのせながらゆっくりと流れていくような
感じがなんとも言えません。



いろはにほへと ちりぬるを
わかよたれそ つねならむ
うゐのおくやま けふこえて
あさきゆめみし ゑひもせす


色は匂へと 散りぬるを
我が世誰そ 常ならむ
有為の奥山 今日越えて
浅き夢見し 酔ひもせす



美しい花もやがて散ってしまうように、今生きている誰もがいつかは死んでしまう
世の中にずっと同じ姿で存在し続けるものなんてありえない
人生という険しい山道を今日も越えて行こう
酔ったようにはかない夢を見るのをやめて



なお当時は濁点を表記しなかったことから、
「浅き夢見し」の部分は文法的に解析すると「浅き夢見じ」となり、
上のような解釈になるというのが通説のようです。

ただ、文字面通り「浅き夢見し」で解釈すると

人生という険しい山道をずっと今まで越えてきたけれども
今思うと浅い夢を見ていたようであったなあ
酔いもしていないのに


となります。
個人的にはこちらも捨てがたいですね。
ネットで調べるとこちらの解釈の熱烈なファンも結構いらっしゃるようです。

皆さんはどちらがお好きですか?


いろは歌を記した現存最古の文書は、
1079年に書写された金光明最勝王経音義とのことから、
10世紀前後に成立したと思われます。
作者は詠み人知らず。

詠み人知らずというのが、歌の無常感を象徴している感じでいいですね。
詠んだ人間は今は誰だかわからなくて、
長い年月が経ってしまったけれど
今も桜の花は美しく咲き乱れ
人々の心を慰め続けているみたいな感じがします。


なお「いろは歌」と同じ技巧を使った歌としては
「とりな歌」「きみのまくら歌」「あめふれ歌」「たゐに歌」などあり、
「とりな歌」などは漢詩みたいな感じで結構好きなんですが、
いずれも「いろは歌」のように読んでさらさらとゆっくり流れないんです。
どこかつっかえてしまう感じというか、
超絶技巧を使っているという努力が見えてしまっているというか。
いろは歌」はそれを感じさせないんです。


いろは歌」は、このように無常感を見事に表した超絶技巧の歌にもかかわらず、
成立については明らかでないミステリアスな部分があるため、
実は暗号が隠されているのだとか様々な珍説もたくさんあります。
一番驚いた珍説は、キリスト教の暗号が隠されていて、
いろは歌から「イエス」の文字が浮かび上がるというものでしたが、
本当ならばすごい話ですw
興味のある方は読んでみてください。