らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【映画】ライフ・イズ・ビューティフル 「凧になったお母さん」エピローグと共に


 
さて、この「凧になったお母さん」の物語ですが、
「火垂るの墓」同様、助かって欲しいと願う登場人物が、全て死んでしまい、
ある意味、救いがない結末といえます。

ネットのレビューなどを見ますと、
戦争が母親と子供を殺したトラウマとなるような話で、
児童などに見せる必要があるのかと怒っていらっしゃる方もおられるくらいです。

実は、「凧になったお母さん」を観て、
自分は、ひとつの映画を思い出しました。
それは「ライフ・イズ・ビューティフル」という映画です。
この2つの映画は、ちょっと似たところがあると感じました。

ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、
簡単に紹介しますと、

ユダヤ系イタリア人で陽気な性格のグイドは、
小学校の教師ドーラと駆落ち同然で結婚し、
男の子をもうけ、北イタリアの田舎町で、幸せな生活を送っていましたが、
駐留してきたナチスによって、家族は強制収容所に送られてしまいます。
母親と引き離され、不安がる息子に対しグイドは言います。
「これはゲームなんだよ。泣いたりしたら減点。
いい子にしていれば点数がもらえて、1000点たまったら勝ち。
勝ったら、本物の戦車に乗っておうちに帰れるんだよ」

グイドは戦争が終わる直前に、処刑されてしまいますが、
最後の最後まで息子の前で、ゲームを演じきり、息子の命を守ります。
ほどなく連合軍の戦車がやってきて、収容所を解放。
小さな息子は戦車に乗って、他の収容所から解放された母親と再会するという
「凧になったお母さん」の話と違い、ハッピーエンドで話は終わります。

少し話は外れますが、
このグイドは自分が理想とする男でもあります。
お金も自由も余裕があり、何ら問題を抱えていない時は、
誰でも陽気で愉快なキャラでいられます。
しかし、全てを失った命の極限状態でもそのように振る舞えるのが、
真に陽気で愉快な素晴らしい男なんです。

最後の最後の場面、グイドが処刑場に連行される時にも、
隠れている息子に、全身全霊で陽気な表情をみせ、ゲームを演じる姿は、
自らの全ての水分を幼い息子に注いだ「凧になったお母さん」のシーンと重なります。


このように、戦争というものは、洋の東西を問わず、
一番弱い者と弱い者を守ろうとする者から命を奪ってゆく残酷なものです。

そして、戦争中においては、「今」をどうするかで精一杯で、
この人達には戦争を止めることについては為す術がありません。

戦争とはそういうものであることを、
人々は肝に銘じて知る必要があります。

安易な軽い気持ちで戦争を始めても、一度走り出したら、
始めた人の意思に関わらず、戦争は転がるところまで転がります。
その戦争が転がってゆく地べたに生きているのは、
先に言った一番弱い人であり、
それらの人々を踏み潰し尽くして、やっと戦争は止まります。

グイドもお母さんも、全力を以てしても、
愛する子供の「今」の命を守ることしかできない。

結果としてグイドの息子は助かり、カッちゃんは助かりませんでしたが、
それはほとんど偶然の運みたいなもので、
結果が逆でも、全くおかしくありません。


なお、映画を見ますと、
「ライフ・イズ・ビューティフル」は、グイドは死んでしまいますが、
自分の命の最後の最後まで、幼い息子を守ろうとした執念が実って、
母子再会を果たします。

鑑賞している人は、グイドの思いが実って良かった良かったと、
ある意味、途中までの鬱々とした心が吹っ飛んで、
すっきりとした気持ちで、家路に着くことができます。

それに比べて「凧になったお母さん」や「火垂るの墓」は、
なんであの子達は死ななければいけなかったのだろうと、
なんともやり切れない心がもやもやした状態で、家路に着き、
下手したら悶々とした心を、引きずることになるかもしれません。

しかし、戦争というものを真に知らしめる映画としては、
「凧になったお母さん」「火垂るの墓」の方が好ましいのではないかと、
個人的には思っています。
なぜなら、戦争というものは、そのほとんどが報われないもの、やるせないもの、不条理なもので、
ハッピーエンドは、ほぼ有り得ないからです。

ですから、良かった良かったとホッとして、
もやもやを忘れて、すっきりと家路に着くより、もやもやを引きずる方が、
戦争というものの実態を、きちんと捉えていることになるのではないかと思います。

我々は、もやもやした心を常に胸に抱きながら、
戦争というものを考えていかなければならないのではないかと感じます。


でも「ライフ・イズ・ビューティフル」はとてもいい映画です。
こちらは父子の話ですが、幼い息子との触れ合いが非常に優しく描かれています。
お勧めの映画です。