らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【映画】八つ墓村 おまけ



子供の頃、「八つ墓村」にショックを受け、地図で八つ墓村を探したがみつからなかった。
それもそのはず。
それはフィクションの地名だったからに他ならないが、
ブログ友達のご指摘により、
八つ墓村の名前は近隣の地名岡山県真庭郡八束(やつか)村(現在の真庭市蒜山)が
モデルであることを知った。
あと多治見家の屋敷は岡山県高梁市にある有名な旧家で、
落武者が見下ろしていた村の風景は、岡山県鳥取県境の明智峠からのものらしい。

今回は1977年公開松竹版「八つ墓村」の紹介をしたが、
その他にテレビやら映画で何度も製作されている。
その中で自分は1996年公開の市川崑監督の「八つ墓村」を劇場に見に行った(画像参照)。

豊川悦司金田一耕助
浅野ゆう子(森美也子)
岸部一徳(要蔵 久弥 庄左衛門)
小林昭二(落武者)

というキャストで、それはもうワクワクして行ったのだが、映画が始まると???
何か違う。子供の頃見たのと画面から感じる怨念の取り憑き具合が全く違う。
良く言えばクール、悪く言えば淡白。

落武者はそんなに怨みを残して殺されたように見えないし、
極めつけの多治見要蔵の村人32人殺しの回想シーンも、
岸部一徳さんに全く狂気を感じない。
真面目なサラリーマンの顔を白塗りして、適当に暴れている感じに見える。
最後の美也子役の浅野ゆう子さんも全く同じ。
おとなしい思いつめた表情で追いかけてくる。
あれだったら逃げないで簡単に捕縛できそう。
もしくは説得できそう。

そして致命的なのが豊川悦司さん演じる金田一耕助
豊川さんのファンには大変申し訳ないのだが、
あんなアホっぽい金田一探偵いまだかつて見たことがない。
「しまったー」

この台詞で笑える人はこの作品を見た人です(^_^;)

ではなぜ野村版と市川版とではこれだけ内容が違うのだろうか。

それは原作の解釈の違いにあるらしい。
実をいうと、原作の「八つ墓村」は登場人物が非常に多岐に渡り、
事件も結構入り組んでいて複雑である。
まさにミステリーそのもの。
しかし野村版は大胆にも事件のキーマンと言える人物を省略しており、
登場人物の相関関係をシンプルにしている。

即ち原作の「祟り」の部分にこだわって物語の説明をつけ、「ホラー」として特化したのが野村版で、
「ミステリー」の原作をできるだけ忠実に再現したのが市川版といえると思う。

では市川版はミステリーとして成功しているかと問われれば、あまりそうは思わない。
多岐に渡る登場人物をうまくまとめているとは言い難いし
(市川版とて省略している登場人物もある)、
登場人物の心理描写も中途半端で消化しきれていない気がする。
ミステリーを映画化するとよくそういう批判されることありますよね
市川版「八つ墓村」もまさにそれ。

そういう意味では物語を「祟り」に着目して単純化し、
2時間でうまくまとめた野村版の方が物語としては成功していると思う。

ちなみにこぼれ話として、原作の横溝正史金田一耕助に最も似つかわしい役者として
渥美清を推していたらしい。
人柄よく温厚そうではあるが眼光鋭いところがあり、
そういうところが金田一耕助に合っていると思ったのでしょうか。

最後に、後年梶井基次郎桜の樹の下には」を読んだ時、

桜の樹の下には屍体が埋まっている!
これは信じていいことなんだよ。
何故って、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。

の冒頭部分で少し頭をよぎったのが野村版「八つ墓村」で、
満開の桜が風で夜空に散っていく風景をバックに、
無表情でこちらに走ってくる山崎努さん演じる要蔵の姿。

この映画に出てくる桜の大樹は、それは見事で、
その満開の花びらが夜空に舞う風景は極めて美しい。
が、それは同時に死すら予感させる美しさでもある。
この映像を構成した人は、ひょっとして梶井基次郎を読んだのかなと思ったりしたものでした。

というわけで記事を見て興味をもたれた方は、
野村版でも市川版でも原作でも好きなものをぜひ手に取ってみてください(^^)