らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「いてふの実」宮沢賢治

自分がいつも乗り降りしている駅の入り口辺りに大きな銀杏の木があります。
大人ひとりでは抱えることができないくらいの大きな木で、
その木のすぐ横のビルの2階にあるカフェが自分のお気に入りの場所で、
休日などは銀杏が見える窓際の席で本を読んだりネットをするのが楽しみになっています。

春夏秋冬いろいろな表情があって冬の間は丸坊主ののですが、
五月を過ぎるといつの間にやら青いひらひらの葉っぱをたわわに繁らせ、
秋には毎年木全体が金色に輝く。
金色の葉っぱと一緒にサクランボの実のようないちょうの実も秋風にゆらゆらゆれています。

恥ずかしながら、自分と銀杏とのかかわりのようなものを書いてみましたが、
それにしても、宮沢賢治の自然との共生感は非常に素晴らしいものがあります。
注文の多い料理店 序」で述べていたように、
自然から貰ったものを感じて書き写しただけのものであるとすれば、
なんと優しく深くきめ細やかに自然と接しているのでしょう。

いちょうの木が風に揺れて、いちょうの実がゆらゆらゆれても、
実がついている位置、大きさ、色はひとつひとつ違うわけですから、
ゆれかたもそれぞれ百様でそれぞれ個性があるはずです。

それを男の子も女の子も、勇気のある子も臆病な子も几帳面な子もそうでない子も、
お互いを励ましあいながらやがてお母さんの木から一斉に旅立っていくと感じた賢治は、
やはり読み継がれていくべき人であると思います。

宮沢賢治作品の翻訳家として著名なロジャー・パルバースさんは
宮沢賢治をファンタジー作家とは思っていない。ひとつのリアリズムとして受け取っている。」
とおっしゃってますが、自分も全く同意見です。

最後に日の出によりこどもたちの旅立ちの時が来た瞬間のくだり、
「突然光の束が黄金の矢のやうに一度に飛んで来ました。子供らはまるで飛びあがる位輝やきました。」

自分は山登りをしますが、山頂での日の出(御来光)はまさにこんな感じです。

「お日様は燃える宝石のやうに東の空にかかりあらんかぎりのかゞやきを
悲しむ母親の木と旅に出た子供らとに投げておやりなさいました」

こがね色のいちょうに宝石のような朝のお日様の輝きが溶けあい実に美しい描写です。

もし小さなお子さんがいたらぜひとも読んであげてほしいですね。
きらきらと美しく輝く素晴らしい物語だと思います。