らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

夏目漱石「こころ」の思い出

 


夏目漱石「こころ」は、個人的に、ちょっと思い入れのある作品なんです。

自分は高校生の国語の授業で「こころ」に出会いました。
それ以来なんとなく惹かれるものあり、
全編を何度となく繰り返し読み直したりしました。

なぜ当時の自分は「こころ」に惹かれたのか。

おそらく、それは、作中の「私」と同じ理由ではなかったかと思います。
なんとなくミステリアスな雰囲気ながら、
人生について核心をつくような言葉を発してくれる
優しく、もの静かな「先生」に惹かれたから。

当時は高校生だから「精神的向上心」とか「明治の精神」とか
その他、先生の言っていることでわからないことはたくさんありました。

「先生」が自殺を決意した時は、ただただ悲しかった。
その理由は、もう二度と「先生」に会えないんだ…
というような単純な、よくいえば素朴な思いだったんだと思います。

年月が過ぎ、社会人となり、
自分も「先生」と同世代になり、
この度、久々に「こころ」を読み返してみました。
高校生の時にはわからなかったことも、
年の功からか、うっすらながら、こんな気持ちではなかったのかなと
先生の「こころ」が少しだけわかってきたような気もしました。
というわけで、ブログで記事を書き付けたりしています。

ところで高校生の時、
国語の授業で「こころ」を習ったと言いましたが、
その時のちょっと笑える(失笑?)話があるので、
蛇足ながら、恥を忍んで紹介しようと思います。

高校生当時は、男女交際覚醒の時期なので、
先生とKとお嬢さんの恋愛模様のくだりは、
クラスでもかなり盛り上がりました。

特に自分は「お嬢さん」というネーミングにキュンときましたね。
どことなくかわいらしくて、品がある雰囲気に憧れました。

国語の授業では少しずつ区切って
順番に教科書を読んでいくのですけれども、
自分は運悪く?「先生」が奥さんに
「お嬢さん」との結婚の申し出をする場面に当たりました。


『私は突然「奥さん、お嬢さんを私に下さい」といいました。
(中略)
一度いい出した私は、いくら顔を見られても、
それに頓着(とんじゃく)などはしていられません。
「下さい、ぜひ下さい」といいました。
「私の妻としてぜひ下さい」といいました。
奥さんは年を取っているだけに、
私よりもずっと落ち付いていました。
「上げてもいいが、あんまり急じゃありませんか」と聞くのです。
私が「急に貰(もら)いたいのだ」とすぐ答えたら笑い出しました。』


この箇所を読んだ時、思わず教室がどおっと湧きました。

国語の先生も
「もぞ君…、今の部分、力こもっててすごく良かったぞ。」
と誉めて(冷やかして?)くれました(^_^;)

授業後お昼を食べながら
「もぞ君てさあ、「先生」のセリフとかでプロポーズ言いそうなキャラだよね」
などと女子に冷やかされたりもしました。
それ以来、そこの場面を読むと、
今でもその時の情景がフラッシュバックしてしまうことがあります(^_^;)

そして「こころ」では、もうひとつ憧れたものがあります。
それは東京での学生生活の描写。
「私」が鎌倉で海水浴をしたり、
「先生」がKと一緒に歩いた東京の街の界隈、夏休みに巡った房総半島など、
当時名古屋で高校生をしていた自分にとってはまさに憧れでした。

東京の大学に入って、最初の夏、鎌倉の由比ヶ浜で海水浴した時は嬉しかったですね。
あー、私と「先生」はこの海の中で初めて出会ったんだなと感無量でした。
無論自分の周りには「先生」もいなければ、「お嬢さん」もいませんでしたけれども。
そのほか、神田の界隈や房総の鯛の浦に行った際にも、
その都度「こころ」の場面を思い出したりしました。

そういったわけで「こころ」は自分にとって単なる文学作品に止まらず、
青春の1ページであり、いろいろな思い出があるんです。
作品の内容外の思い出も、その分かちがたい一部ですので、
今回「こころ」の思い出として記事に書いてみました。