らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「食物として」芥川龍之介








金沢の方言によれば「うまさうな」と云ふのは「肥った」と云ふことである。
例へば肥つた人を見ると、あの人はうまさうな人だなどとも云ふらしい。
この方言は一寸食人種の使ふ言葉じみてゐて愉快である。
僕はこの方言を思ひ出すたびに、自然と僕の友達を食物として、見るやうになつてゐる。
里見君などは皮造りの刺身にしたらば、きつと、うまいのに違ひない。
菊池君も、あの鼻などを椎茸と一緒に煮てくへば、 脂ぎつてゐて、うまいだらう。
谷崎潤一郎君は西洋酒で煮てくへば飛び切りに、うまいことは確である。
北原白秋君のビフテキも、やはり、うまいのに違ひない。
宇野浩二君がロオスト・ビフに適してゐることは、前にも何かの次手(ついで)に書いておいた。
佐佐木茂索君は串に通して、白やきにするのに適してゐる。
室生犀星君はこれは――今僕の前に坐つてゐるから、甚だ相済まない気がするけれども――
干物にして食ふより仕方がない。
然し、室生君は、さだめしこの室生君自身の干物を珍重して食べることだらう。



「食物として」芥川龍之介








皮造りの刺身と芥川龍之介のツーショット







椎茸とあえた煮物









ローストビーフ







干物




芥川龍之介といいますと、精密で言葉に寸分の隙もない、
言葉の効果を計算し尽くして書き上げた作品というイメージがあります。
ですから、果たして、自分は、芥川作品の真髄を読み切っているのかと不安になり、
おいそれと気安く芥川作品の記事を書くことができないのです。

しかし、そんな繊細かつ過敏で神経質ともいえる芥川龍之介にも、
こんな茶目っ気のある一面もあります。
今回はそんな作品を紹介いたします。

友人の文筆家たちをどのように料理したら、一番美味しいか。

猟奇的かつコミカル。
この相反する2つを満たすことができる作家が他にいるでしょうか。

自分的にツボだったのは、宇野浩二のローストビーフ室生犀星の干物。
これから彼らの写真を見る度に、ローストビーフと干物のイメージが浮かんでしまいそうです(笑)