らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【人物列伝】19 真田信之





ブログ友達の方から、信州上田城の桜が満開になった旨の記事が届きました(画像上)。

上田城といえば戦国の真田一族の城。
巷では真田幸村が大人気らしいですね。
なんでも戦国武将人気ナンバーワンとか。
発端は、あるゲームのキャラのようなんですが、
その昔から猿飛佐助など真田十勇士の殿様として人気を博してきました。

確かに真田幸村には華があります。
大坂冬の陣での真田丸での活躍、
大坂夏の陣にて徳川家康本陣に突入し、あわやというところまで追いつめながら、
果たせず戦死などというエピソードは、戦国武将の華を感じさせるものです。

しかし、自分は上田城というと、幸村の兄信之が思い浮かぶんです。


真田信之は1566年信濃国(今の長野県)に真田昌幸の長男として生まれました。
幸村より1つないし2つ年上といわれています(幸村の生年不明のため推定)。

真田一族は祖父幸隆、父昌幸もそうでしたが、軍略に長けた者が多く、
信之もその例に洩れませんでした。
まだ10代の頃、手勢800を率い、5000人が立てこもる敵方の城を僅か1日で奪うなど軍功を立てています。

ピンとこない方もいらっしゃるかもしれませんが、
通常は、城方の兵数の方が少なく、攻め方が倍する兵数で臨むものなのですが、
それでもなかなか城は落ちないものなのです。
それを6倍以上の城方の兵を相手に1日で陥落させるなど、
やはり並みの武将ではありません。

後に兵法とは何かと尋ねられた時、信之は即座に
「兵法は家臣を不憫に思うことであり、軍法は礼儀を守ること」
と答えたといいます。

この言葉からも信之は、勇猛に任せて、敵に突っ込んでゆくタイプでも、
計略で策術を弄するのを得意とするタイプでもなく、
もっと大きなところに視点を置いて、物事を見据えていた武将だということがわかります。

真田一族の領土は大国のはざまにあり、常に近隣の大国の思惑に翻弄され続けました。
関ヶ原の戦いにて、父昌幸と弟幸村は西軍に、信之は東軍に別れて戦うことになります。
小大名の生き残りをかけ戦略という人もおり、諸説ありますが、
少々、山師的要素のある父昌幸に対して、
信之は冷静に、大きな時代の流れが徳川に傾いていることを感じていたのかもしれません。

結果は西軍の昌幸と幸村は徳川秀忠の軍数万を足止めし、活躍するも、
関ヶ原の戦いにより東軍の勝利。

信之必死の助命嘆願により(この時に名を信幸から信之に改名)、
昌幸らは死罪を免れ、九度山流罪となります。

以後十数年に渡り、九度山の父弟の生活が困らぬよう、密かに生活の援助を行い続けました。

その後、九度山を脱した幸村は、大坂の陣で奮戦するも戦死。
戦国時代が終わり、世の中は泰平を迎えました。
家康は死に、息子秀忠の時代となりましたが、
信之の戦いはむしろこれからでした。

父弟の抵抗により関ヶ原の戦いに秀忠が遅参したことや、
大坂の役において幸村が幕府軍を苦しめたことから(大坂の役の徳川方の総大将は家康でなく秀忠でした)、
将軍家に疎まれ、常に監視され、真田家は取り潰しの危険に晒されていました。
1つの判断ミスが全てを失わせる緊迫の日々、およそ100余りの大名家が取り潰される中、
信之は真田家を守り抜きました。

しかし、信之懸命の努力にもかかわらず、
1622年父弟とともに守り抜いた先祖伝来の上田から信濃国松代に領地替えとなります。
名目上は加増ですが、豊かな上田から河川の氾濫も多く荒れた松代への減封といわれています。
咎を見いだせなくても、幕府はよくこのような方法で大名の力を削いでいったのです。

信之は家臣二千とその家族を引き連れ、黙々とひたすらに新しい領国経営に努めました。

晩年、真田家に後継者争いが起こり、幕府や縁戚の大名を巻き込んだ騒動となりますが、
当時90歳を越えていた信之が、自ら江戸に赴くなど事態の収拾に努めました。
騒動が収まるのを見届けるように、信之はこの世を去ります。


享年93歳。
大坂の陣で弟幸村が戦死した43年後のことでした。

その後、真田家は明治まで大名としてその家名を保ち、
幕末には佐久間象山などの傑出した人材も輩出しました。


信之辞世の句


何事も
移ればかわる
世の中を
夢なりけりと
思いざりけり


この句は決して長い余生を安穏と過ごし一生を終えた者の辞世とは思われません。

最後まで一心に身を尽くして生き、
父祖から受け継いだものを守り抜き、
ふと気づくと、時代は移り、自分は年老い、父や弟、その他共に戦ってきた人々も
この世からほとんど居なくなってしまった…

今までのことはひょっとしたら夢だったんだろうか…

信之の孤独感を感じつつも、
未練や後悔というものは感じず、ひたすらに静かな心の内が詠み取れる歌に感じます。


春の上田城に咲く
華やかな桜の花に目を奪われる者は多いけれども

人知れぬ地中に深く根をはり
その花を支える存在に思いを馳せる者は少ない

だが花は知っている
地中深き根なかりせば
自分は存在しえぬものであることを