らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「翔ぶがごとく 9巻」司馬遼太郎








西南戦争の頃の熊本城の様子



9巻は西南戦争最大の激戦田原坂の戦いから、
それに破れた西郷軍が熊本城攻略を放棄し、南の宮崎まで転戦するまでのお話です。



先の8巻で、司馬遼太郎さんが乃木大将の事を辛口に書いているという話をしましたが、
それと同様の辛口は、戦いに敗れた西郷軍により多く向けられています。
司馬さんの批判の矢面に立ってるのは、総帥西郷隆盛よりも、
実質的な指揮官であった桐野利秋です。







司馬さん曰く、桐野は戦略的指揮官という器ではなく、単なる壮士風であり、
もっと言ってしまえば、テロリスト(人斬り)の手合であり、
熊本城など青竹でひとたたきという言葉が象徴するように、
彼には、ほとんど戦略という思考がなく、勢いと気合だけの人であったと言います。

挙げ句、小説では、桐野が総帥西郷と不仲であったことを匂わしており、
読み方によっては、桐野利秋が西郷及び西郷軍を無理矢理死地に追いやった

張本人とも読めなくはないのですが、
個人的には、桐野に西郷さんを差し置いて西郷軍全体を仕切って
自分の思うようにしたということが果たして可能だったのかなと思いますし、
桐野だけに西郷軍の誤った対応の責任を負わせるのはちょっと酷なような気もします。



桐野利秋なる人物は、西郷軍を象徴する薩摩武士の典型です。
西郷が好んだ薩摩隼人の「ぼっけもん」とは、
命知らずで、無鉄砲で、危ないことに物怖じせず挑戦し、
小さなことにウジウジせず、堂々として大胆で行動力があり、
危なっかしいが、子供の様に無邪気で、やんちゃで、
故に周りから心配されるも、いつの間にか慕われ、愛されてしまう、愛すべき男というような意味ですが、
まさにそれは桐野のような漢を言うのであり、
西郷軍には、西郷が好むぼっけもんのキャラが集まっていたわけです。
そういう意味では、この巻辺りに書いてある桐野の判断や戦略・戦術眼といったものは、
西郷軍総体に関するものとして読むのが最も正しいのかもしれません。

別の言い方をしますと、西郷軍というのは良きも悪きもラストサムライだったわけで、
今まで、個人の魅力や才覚、力量、勢いで戦いに勝ちを収めていた時代が、
合理的かつ迅速にいわば機械的に大量の兵員物資を補充補給できるものが戦いに勝つという時代に

打ち負かされる、
ちょうど分かれ目の戦いであったと思います。



それでは西南戦争において、西郷軍に勝ち目はあったのでしょうか。

自分的には迅速に熊本城を落として、小倉まで進出し全九州を制覇すれば、
ひょっとしたら?と思うところはあります。
しかし先ほども言いましたように、西郷軍とは良きにつけ悪いにつけラストサムライであり、
合理主義による近代化というベクトルとは逆方向に位置する集団です。
士族が支配する社会に日本全体が回帰するかといえば、

自分的にはやはり否定的に取らざるを得ません。
戦いが長引けば、西洋列強の介入の危険もあるでしょうし、
新生日本にとってあまりいいことはないように思います。



しかし、小説を読んでいる分には、西郷軍には個性の強い面々が多く、
キャラ的には魅力を感じるものがあります。

桐野利秋と並んで西郷軍の両輪と言われた篠原国幹







彼も、この戦には作戦など要らない、押して押して押しまくるだけだ。
と言った典型的な薩摩隼人のぼっけもんですが、
彼はひどく寡黙で手兵を指揮する時にも、ほとんど口を利くことはなく、
彼の動作やしぐさを察して、その部下の兵達は見事に戦ったという話があります。

実は「銀河英雄伝説」というアニメに、
アイゼナッハという、ほとんど喋らない、沈黙提督とアダ名されるキャラが出てくるのですが、
https://youtu.be/KuN9SxSg0FU

これは、この篠原国幹をモデルとしたキャラと言っていいでしょう。
アイゼナッハ提督はただの変人にしか見えませんが笑、
篠原国幹は、彼の姿が見えるところで、彼と共に戦った者にだけわかり得た、
言葉を交わさずとも求めるものがわかり得る、古き時代のタイプの名将だったんでしょうね。

篠原は田原坂の戦いの初期の段階で戦死してしまいましたので、

古き良き勇将の名を残しましたが、
桐野は最後まで生き残って西郷軍を指揮し、

総帥の西郷隆盛を死に至らしめてしまったため、
生きていたのが長い分だけ失策も多く、その名を貶めてしまったのだとも感じます。


なお、この巻については西南戦争についての諸々の戦いの経過が詳細に書かれており、
何月何日、政府軍△△部隊がどこどこからどこどこへ移動し、西郷軍の〇〇部隊と交戦。
というようなことが延々と何十ページにわたり書かれており、
読んでいて必ずしも面白いものではありません。
きっちりと理解するには、巻末の地図を参考にしながら読まねばなりませんが、
果たしてそこまでいる人がどれだけいるか。
特に女性などは苦手な作業かもしれません。

そこで西南戦争の戦いの経緯をビジュアル化したものが YouTube にありましたので、
それを推薦しておきます。
自分などはこれで両軍の動きを視覚化した上で小説を読むと、
スムーズに頭に入ることができました。
おすすめです。

https://www.youtube.com/watch?v=YAGgNwlD3mk&feature=youtu.be



次回いよいよ最終巻です。