らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【万葉集2018】1 彦星と織女と





彦星と
織女(たなばたつめ)と
今夜(こよひ)逢はむ
天(あま)の川門(かはと)に
波立つなゆめ


詠み人知らず


彦星と
織姫とが
今夜逢おうとしている
天の川の渡し場に
波よ、立たないでくれ、決して





今の季節は旧暦の七夕の時分にあたります。
七夕とは、もともと中国の話が平安時代の頃日本に伝わって広まったとも、
古来から日本にある伝承が受け継がれ、今の七夕となったとも言われています 。

どちらの由来が正しいにせよ、夏の満天の星空に思いを馳せるという風習は、
自然に寄り添って生きてきた日本人の心に合っていたんでしょうね。


今回の万葉集の歌は、今から千数百年前に生きた人々が、
七夕の星空に込めた思いを歌ったものです。

口ずさんでみて、なんておおらかで素朴な祈りが込められた歌なんだろうと思います。
どこかロマンティックな香りもして、
ちょっとため息が出てしまいそうにもなります。

決して机上でひらめいて詠んだのではない、
夏のパノラマに広がる満天の星空を見上げながら、ふと浮かんだ、祈りにも似た思い。
そんな感じがします。

この歌を詠んだのは詠み人知らず、
つまり作者が誰かわかっていない人の作品です。

千数百年前の古代に生きていた、今は名前も記憶されていないその人が、
どんなシチュエーションで詠んだのだろうか、
想像するだけで思いがふくらみます。

ただ、その三十一文字から感じ取れるのは、
素朴な祈りとおおらかに星空を見上げる心地よき思い。

現代の人間からすると、
古代というのは疫病や飢饉に悩まされた貧しい社会というイメージがありますが、
豊かといわれる現代の人間は、
これだけの素朴さとおおらかさを持ち合わせているでしょうか。

現代の人々は、この時代の人に比べると、
とても狭い空間の中で生きているような気もします。
宇宙に到達し、様々な事跡が明らかになっているにもかかわらず、
なぜかその感は否めません。


豊かさとはいったい何か。
ちょっと考えさせるものがありますが、
現代は、物心を満たし、利便という豊かさを得た反面、
おおらかさや素朴さという豊かさを失ってしまったような気がします。