らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【人物列伝】37 バーブル1 農耕民族と遊牧民族









私たち日本人は島国に住んでいますから、

自分たちの風習や考え方が当たり前だと思って生きているところがあります。
しかし、世界には、日本人には発想し難い風習や考え方を持った民族も数多く存在します。
世界の民族を大きく二つに分けますと、農耕民族と遊牧民族に分かれると思いますが、
日本人は前者の農耕民族に属するも、

今回は後者の遊牧民族に属する或る人物を紹介したいと思います。

その人の名はバーブルと言います。








彼は16世紀前後、日本の応仁の乱の辺りから戦国初期の時代に、

中央アジアからインドで活躍し、
インドのムガール帝国初代皇帝となった人物です。
彼は今のウズベキスタンのフェルガナ地方に生まれました。
父方をチムール、母方をチンギス・ハンと、
それぞれ遊牧民族の英雄を祖先とした人です。






チンギス・ハン





チムール


遊牧民族といいますと、荒々しく馬を乗りこなし、武術に優れた、
猛々しい人物を思い浮かべますが、
彼は文学を好み、その自叙伝「 バーブル・マーナ」を叙述したほどの文化人でした。

バーブル・マーナを読みますと、

緻密にして繊細、卓越した記憶力と豊かな詩情が文脈の中に感じ取れます。

その中でも面白い記述を紹介しますと、
バーブルはメロンが好きだったのでしょうか。
土地の特長・特産を書いた部分で、その土地がメロンの産地ですと、
メロンに関することを詳細に記しています。


「その地方の果物は豊富で、そのメロンは極めて美味である。
ただしメロンの季節にメロン畑でメロンを売る習慣はない。」


「ブハラハメロンは極めて美味である。

しかしフェルガナ地方のアフシィのメロンはこのメロンより甘く繊細な味がする。」


あと自分が詩作に優れていたので、他人の作品が気になったのでしょう。
ある君主が詩を創作することが記述されていますが、
「その作品は全くつまらぬもので、

味に乏しく、あのような詩であれば、作らない方がマシであった。」
と酷評しています(笑)


彼が支配しようとしたサマルカンドは当時遊牧国家の中心的都市でしたから、
様々な遊牧民族に狙われては奪われの繰り返しで、
その争奪戦に破れた彼は、今のアフガニスタンの首都カブールで再起を図りますが、
何度か再起をこころみるも、ついにサマルカンドをあきらめ 、
インドに転進することに志します。バーブル30代初めのことです。









農耕民族の日本人的には、一つの土地をしっかり耕して実らせる、
いわゆる一所懸命ということがよく言われます。
悪く言いますと、土地にしがみつく、執着するということがいえるかもしれません。

しかし遊牧民族はそのような考えはありません 。
その土地の富が無くなったのであれば、

富のある土地に移動すればよいというのが、彼らの基本的発想です。
家畜を放牧し、よい草を求めて移動を続けた彼らの生きる術とでも言うべきでしょうか。
実りのない土地に固執していても、家畜は死に、自分達も飢えて死ぬだけですから、
きわめて合理的であるといえます。

それに比べ、日本は豊かな土地ですから、

とにもかくにも一つの土地にしがみついて頑張れば、

それなりの実りを得ることができます。
日本人の一つのことに打ち込む姿勢を美徳とする態度、
かつての終身雇用などもそうかもしれませんが、
そういう気質はこういうところから来てるのかもしれません。

しかし、これは悪く言えば、ひとつのところにこだわって
命運を共にすることと繋がるところがあります。


遊牧民族にはそのような観念はないでしょう。
強敵が近づけば、逃げて危難を回避すればよいし、
富が手に入らなければ、富のあるところに移ればよいのです。

ただし、彼らの豊かな土地に対する執着心は半端なものではありません。
狙いをつけた豊かな土地には、しつこく何度も何度も攻撃を仕掛けます。
占領しても刃向かった者を皆殺しというのも珍しくありません。
それは、豊かな土地を手に入れなければ、

ある意味、国ごと移動してきた自分たちの滅亡を意味するからです。
ですから、豊かさに対する執着心というのは、日本人が考えている以上のものがあるといえます。



最後に、読書好きであるバーブルの、

遊牧民的な本の愛し方についてですが、
彼は書物が好きでたまらず、ある土地を征服する時に、

まず最初にすることは、

その土地の図書館を襲って、そこにある優れた書物を奪うことだったそうです。

農耕民族の日本人には決して無い発想の本好きのあり方ですね(汗)


さて、このバーブル、インドに転進することで初めて花開いたと言えますが、
時には織田信長顔負けの戦術で敵を打ち破ります。
次回はそれについて述べたいと思います。