らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「秋の一日」野上弥生子










http://www.toshin.com/center/sp/kokugo_mondai_2.html

恒例のセンター試験国語小説文の読解。
今年は野上弥生子「秋の一日」。

病弱で長らく外出できなかった妻が、久しぶりに家族と一緒に外出して、
上野に絵画を見に行くという作品。

秋のまったりとした雰囲気と美術館独特の静謐な雰囲気が相まって、
子供と和気あいあいと美術展を巡りながら、
ある絵画を見て、自らの娘時代の思い出をふと回顧する、
主人公の女性の心情がきめこまかに描写されている一節が出題範囲でした。

秋というのは、小春日和の暖かさを感じるときもあれば、
すぐ間近に迫る冬の冷たさを感じることもある季節です。
主人公の心情が、そのような移ろいゆく秋のように、
様々に変化して揺れ動いており、非常に描写の上手い作品と感じました。

優しく静かな感じの作品ですが、
主人公の移ろう心情の変化を捉えねば、
或いは、設問を解くのは難しかったかもしれません。

自分は、主人公のような絵画の見方が非常に好きですね。
絵画を鑑賞するということは、
あらかじめ頭に入れておいた絵画の知識を、本物を目の前に確認することではありません。

知識などほとんど無くとも、
作品と直接向かい合うことにより、
感じられたものを大切にし、ずっとそれを追いかけてゆく。
それは画家に関することかもしれないし、モチーフに関するものかもしれない。
この作品の主人公のように、全くパーソナルな思い出ということもあるでしょう。
そして、それをどんどん追いかけてゆくうちに、自己の感受性が広がりを見せていく。

そういうものを大切にするということは、
作品に関するデータなどを暗記することよりも、
遥かに自らを豊かに形造ってゆくのに有益であると思っています。





主人公が今は亡き友人の淑子さんのことを思い出した
藤島武二「幸ある朝」







友人の淑子さんをモデルにしたとされる
藤島武二「造花」







なお、作品の最後の方に出てくる中村不折ですが、
画家としては、このような初老の男の裸体画など、
ちょっと変わったモチーフを手がける人ですが
(残念ながら、作中の虎の作品は見つけられませんでした)、







中村不折が最も有名なのは、画家としての作品よりも、
こちらの、夏目漱石「吾が輩は猫である」の挿絵や、






書道家としての新宿中村屋の揮毫などでしょう。






今でも新宿駅東口にある中村屋には自前の美術館があり、
店の揮毫を手掛けた縁なのか、
中村不折の作品もいくつか展示してあるようです。
https://www.nakamuraya.co.jp/museum/about/
今度仕事ついでに寄ってみましょうかね。







過去のセンター試験問題の記事


2015年「石を愛でる人」小池昌代
http://blogs.yahoo.co.jp/no1685j_s_bach/13727403.html

2014年「快走」岡本かの子
http://blogs.yahoo.co.jp/no1685j_s_bach/12452172.html

2013年 「地球儀」牧野信一
http://blogs.yahoo.co.jp/no1685j_s_bach/10965167.html

2012年「たま虫を見る」井伏鱒二
http://blogs.yahoo.co.jp/no1685j_s_bach/8115082.html

2016年は多忙のため、受験放棄です(^_^;)