らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「枕草子」2 犬猫編 清少納言











犬や猫というのは、人間にとって長らくペットとして傍にいる動物で、
昔から、犬猫のいろいろな物語があります。
千年前の、この枕草子においても例外ではありませんで、
犬と猫の話は色々な所で出てきます。


枕草子で犬と猫の話と言うと、まず真っ先に浮かぶのは、
命婦おとどという猫の第9段の話でしょう。

この命婦おとどという名の猫、
日本史上名前が残っている最古の猫だそうです(@_@;)

どんな話かと言いますと、


一条天皇の愛猫である命婦おとどは、大変かわいいので、
爵位まで授かり、専用の乳母(飼育係)をあてがわれ、
それは大切に育てられていました。

あの日、命婦おとどは、縁先でひなたぼっこしながら、
丸くなりながら寝ておりました。
 
それを見た乳母の馬命婦
「お行儀が悪い。こちらへいらっしゃい」と呼びますが、 
言うことを聞く気配がない。
すると乳母は半分ふざけて、
「翁まろ、どこにいるの。命婦おとどを懲らしめておやりなさい」と言うと、
翁まろという名の、人間の命令に忠実な犬は、
それを本気にして命婦おとどに飛びかかります。
驚いて室内に飛んで逃げ込む猫。

それを見てお怒りになった天皇は、
「翁まろを打ち据えて犬島に島流しにしてしまえ。乳母も更迭せよ。」と命令されます。

翁まろはかわいそうに、
使用人の男達に散々棒で打たれ捨てられてしまったのでした。

ところが、その数日後、翁まろは、
どうやったのか宮中に帰ってきてしまう。
それを見つけた使用人の男達は再び翁まろを打ち据えたところ、
とうとう死んでしまったので、
その遺骸を門の外に捨ててしまいました。

しかし、その夕方、ひょっこり、ひどくみすぼらしい犬が現れます。

人々がびっくりして、「翁まろ」と呼んでみますが、
犬は返事をしません。

「翁まろなら必ず返事をするはずだから、別の犬じゃないの。」
とか、
「大の男が二人がかりで打って死んでしまったと言っていたのだから、
翁まろは生きてはいないでしょう。」
と言うのを聞いて、
清少納言が仕える定子中宮もたいそう気の毒がられました。

しかし、翌日の朝もそのみすぼらしい犬はそこにいました。

その犬を見て、翁まろを思い出した私(清少納言)が、
「それにしても翁まろはかわいそうなことをしました。
今頃何に生まれ変わっていることやら。」
と言うや、
その犬がぽろぽろと涙をこぼすのを見て、
びっくりして、「やっぱりお前は翁まろだったんだね。」と呼ぶと、
伏せながら、ワンと返事をする。

その話を聞きつけた中宮様や天皇様も、
「犬にもこんな心があるのですね。」とお笑いになる。

女官たちも集まって、ワイワイ騒ぎながら呼びかけると、
今度は立ち上がって、ワンワンと返事をする。

結局、翁まろは許され、また宮中の飼い犬に戻ったのでした。

でも、同情されて涙を流すなんて、犬にもそんな心あるんですね。
人間ならわかるけども。




以上、もぞの超訳枕草子いかがだったでしょうか(^_^;)
ちなみに原文とそれに忠実な訳はこちらになります。


なんとアットホームで、ほんわりとしたお話なんでしょう。
和気あいあいとした中宮定子の周辺の雰囲気が目に浮かんでくるようです。
格式ばった宮中を想像してしまう自分としては、ちょっとびっくりなくらいです。

翁まろはちょっとかわいそうでしたけれども、
犬や猫を愛でるという心は現代人と変わらない、人の傍らにいるものという感じがします。

ところで、この話はどちらかというと犬贔屓の話なのですが、
実は、枕草子には「猫は」という段はありますが、「犬は」という段はありません。


「猫は、上のかぎり黒くて、ことはみな白き(が良い。)」








「なまめかしきもの。
簀子の高欄のわたりに、いとをかしげなる猫の、
赤き首綱に白き札つきて、いかりの緒くひつきて、引きありくも、なまめいたる。」 

おしゃまで美しいなもの。
すのこの高欄のあたりに、とても可愛い猫が、
赤いリードで結ばれていて、白い札がついていているのが、
重りの緒にじゃれついて引っ張っているのは、
おしゃまで美しい。



猫についてはこんな段もあります。

「むつかしげなるもの
縫ひ物の裏。猫の耳のうち」

むさくるしく見えるもの。
縫い物の裏。猫の耳の中。





猫の耳の中までのぞいている清少納言
細やかな観察力に思わず驚いてしまう一節ですが、
これは猫を実際に抱っこした人にしかわからない「むさくるしいもの」ですね。
清少納言もきっと猫を愛でて抱っこしていたに違いありません。



それに対して犬については、

「すさまじきもの 昼ほゆる犬」 

興ざめなもの。昼間吠える犬。


「にくきもの 犬のもろ声に長々と鳴きあげたる、まがまがしくにくし」

憎らしいもの。
犬が声を合わせて長々と鳴くのは、不吉な感じで、憎たらしい。


どうも清少納言は犬が吠えるのが嫌いなようです。
犬達の遠吠えが不吉っていうのはちょっと笑ってしまいますが、
犬の鳴き声って険があるといいますか、確かに耳障りなところはあります。

なお、当時、宮中では、猫は飼われることは多々あったようですが、
犬はもの忌みの関連などで、ペットとして飼われることはなく、
軒下などに勝手に居着いていたもののようです。
翁まろは、まさにそのようにして居ついた犬だったのかもしれません。






ですから清少納言が生活していた環境としては、
猫の方が身近で、親しみを込めた存在であったわけです。

ところで、翁まろの話で、犬が泣くという下りがありますが、
本当に犬が泣く事はあるんです。
しかし、それは、感情の発露というわけではなく、
目に埃などが入った際などに自然に流れるもので、
翁まろも、ちょうど絶妙なタイミングで目にゴミが入ったのかもしれませんね(^_^;)