らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「蟹のしょうばい」新美南吉






先月は猿をテーマとした記事を書きましたので、
今回はその代わりというわけではありませんが、蟹をテーマとした作品を紹介します。
作者は新見南吉。

真面目でお人好しの蟹が、自分の得意なことを活かして床屋になります。
店がひまなので御用聞きに出るのですが、
山で出会った狸が良からぬことを思いつき蟹にいたずらを・・・

と、ここまでくるとやはり頭に浮かぶのは猿蟹合戦のお話。
いたずらをした狸を蟹が仕返しして・・という話かと思いきや、
ところがそうではありません。

ありもしない山のように大きな狸のお父さんの毛をきれいに刈るために、
蟹は自分の子供や孫をみんな床屋にし、ハサミを持たせ、
綺麗に散髪してあげようとするのです。

素晴らしい話に感じます。

蟹のハサミは狸の首を切り落としたり、成敗したりするためのものではありません。
ひたすらに相手に役に立つためにあるのです。
狸のいたずらに気づいた時、ひょっとしたら、蟹は一時途方にくれるかもしれませんが、 
いずれ思い直し、また何かの役に立つものはないかと再び歩み出すことでしょう。

一見鈍くて頼りないものの中にこそ無垢な価値のあるものが存在する。

生き馬の目を抜く、少しでも損しないように損しないように生きている、
現代社会に生きる者にとっては、その価値は分かりにくく、見えにくいものかも知れません。
しかし、そのようなものは確かにある。
自分はそのように感じます。




「蟹のしょうばい」新美南吉