らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【絵画】「落葉」 菱田春草










絵画芸術というものは、いわゆる画集のようなものだけでは、
その全ての魅力を把握しきれないところがあります。
作品を生で実際に接してみて、初めて発見できる何かがある。
絵画には確かにそういうところがにあります。

今回観に行った菱田春草「落葉 」もそのような作品のひとつ。

まず、絵全体を見渡すように遠くから眺めると、
一見、美しい、秋から冬の枯れた雑木林の木々の作品としか観て取れません。
冬の日差しが薄く明るく雑木林の中に差し込んで、
木々の中を照らし静かなたたずまいを見せています。

それはそれでとても素晴らしいのですが、
しかしながら、今度はこの絵をごく近くで観ると、
そのようなイメージは一変します。
遠くから見ると、静かに眠っているように見えた雑木林の木々の鱗(うろ)や落ちた葉が
ひとつひとつエネルギーを秘めた
生命力に満ち溢れたものとして描かれているのです。

作者は、じっと静かにエネルギーを溜めて、来るべき春を待っている
雑木林の木々の生命力のようなものを看て取ったのでしょうか。

そして、もう一度遠くから絵全体を見渡しますと、
静かさと力強い生命力が同居する、なんともいえぬ不思議な空間がそこに存在しており、
思わず見入って、その中に入り込んでしまうような感すらあります 。


この作品は、菱田春草が腎臓の病から失明の危機に陥り、その療養のため、
1908年(明治41年)東京へ戻り、代々木に住んだ際に描かれたもので、
当時はまだ郊外だった代々木近辺の雑木林がモチーフになっているそうです。
その頃は国木田独歩「武蔵野」に描かれた豊かな里山が、代々木あたりまで広がっていたのです。

菱田春草は、それから2年後に腎臓炎で亡くなりました。
享年36歳。

芸術というものは、それを描いているうちに、
知らずに作者の念が入り込むものと言われることがあります。
もしかしたら、この「落葉」は、病身でありながら、
最後まで製作意欲が衰えずに絵を描き続けた
菱田春草自身の内奥を描いたものであるのかもしれないと、
ふと感じました。

なお、今年の横浜そごう美術館は、
地方の所蔵絵画を随時展示するとのことで、
今回は福井県立美術館所蔵の作品でした。
福井県立美術館に立ち寄られることができる方はぜひご覧にいらしてみてください。