らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「時をかける少女」筒井康隆



 
 
この小説が書かれたのは、昭和40年頃だそうですから、
なんと、もう50年あまりも経つことになります。
 
この作品は、SFの衣を纏った出会いと別れのストーリー。
現在の、SFのネタが出尽くされた感覚からすると、
そのSFの仕掛けは、とてもシンプルなものに感じます。
しかしながら、SFというアイテムは、
それ自体が必ずしも話の幅を広げるものではなく、
人間の心を描写するためのテクニックに過ぎないと思うところがあります。

そういった意味では、ハリウッドのCGを駆使した技術メインのSF映画は、
ジェットコースターのように、座っている最中は面白いのですが、
終って席から離れると、心に残るものが少ない。
映像の刺激というものは、時間の経過とともに薄れていってしまうものですから。

この「時をかける少女」はそういった意味で、SFというアイテムを駆使しながら、
時空を超えた、人の出会いと別れというものを、
とても爽やかに、しっとりと描いているように感じます。

主人公の高校生の芳山和子は、
ちょっと古風な雰囲気のおっとりとした女の子です。
母性愛過多と同級生の男の子から冷やかされますが、
こんな同級生の女の子、自分のクラスにはいませんでしたね(^_^;)

若い頃というのは、なにげに時間をやり過ごしてしまうところがあります。
出会いについてもまた然り。
それは若い時は、伸びゆく生に突き進んでいるので、
別れ、それは死といってもよいかもしれませんが、
それを意識することがないため、
何度でもまた出会うことができると思っているからです。

しかし、ふとした拍子に、二度とこの時は訪れないかもしれない、
この人と二度と会うことはないかもしれないと意識した瞬間、
少女は大人になるのだと感じます。

どんなに願っても、祈っても、会うことはかなわない。
では、その人と再び出逢うにはどうしたらよいのか。
そのような心に遭遇したとき、誰しも思い悩むことでしょう。

それは、その人の、心から発せられた思いを、
大切に自分の心の中にしまって生き続けるしかない。
そうすれば、その思いを持ったその人とまたいつか出会うことができる。
そうした思いを、大切に心に抱きながら生きている人だけが、
再びその素晴らしいものと出会うことができる。
そういう思いを持たない者は、
たとえ、ごく間近ですれ違ったとしても出逢うことはできない。
心が空(から)では、そこにはお互いが触れあった時に生じる、
心の共鳴が起こらないからです。

出会いとはそういうものだと思います。

ラベンダーの不思議な香りに包まれて、
せつなさと懐かしさの入り交じった思いをかみしめながら、
少女が再び歩みを始めるところで、この物語は終わります。


この作品、非常にシンプルで、創造力をふくらませる
行間のようなものが多分に含まれているので、
創作者の意欲をそそるのでしょうか。
何度となく映画になったり、ドラマになったりしています。
 
その中で、最も有名な大林宣彦監督による原田知世さん主演の映画は、
ちょっと自分の時代から外れることもあって、実はまだ一度も見たことがないのです。
また、21世紀になってから作られたアニメ作品、
制作した細井監督は、今公開中の「バケモノの子」で話題の方ですが、
原作の世界の20年後を描いた世界だそうでして、
ちょっと興味をそそられます。

いずれか、もしくはいずれも観てみて、記事を書いてみたいなと思っています。
できれば、9月中には。