らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「きけわだつみのこえ」上原良司さんの遺書より

 
 

明日、8月15日は終戦記念日

今年で、先の大戦から70年が経過しました。
70年といいますと、
明治維新(1868)から第二次大戦(1939-1945)までの
長い時代のスパンが経過したのと、
ほぼ同じ長さの時が経過したことになります。

その長い間、曲がりなにも平和を享受することができたのは、
日本にとって本当に幸せなことであったと思います。

しかしながら、平和とは、天から無条件に降って与えられるものではなく、
人間が不断の努力で造り出すもの。
今までの70年で通用したことが、これからの70年で通用するとは、
必ずしもいえるものではありません。
今を生きる私達は、複雑な世界情勢や社会の変化を読み取りながら、
確固たる不変の信念をもって、
次の時代を、新しい世代に渡していかねばなりません。

では、もつべき不変の信念とは何か。
ここに自分なりの総括のようなものを記しておこうと思います。

それを、自分の言葉によるもので書いてもよいのですが、
時代というものは、先代から託されたものを受け取って、
またしかるべき時に、それを次の世代に渡してゆくものです。
ですから、ここでは、先の大戦で亡くなられた先輩の言葉を引き継ぐ形で、
それを示したいと思います。

きけわだつみのこえにも収録されている
上原良司さんという方の遺書を紹介させていただき、
同じ思いをもつ自らの総括にしたく存じます。



上原良司
慶大経済学部学生。
昭和18年12月入隊。
昭和20年5月11日特攻隊員として沖縄にて突入戦死。
22歳。



所感

栄光ある祖国日本の代表的攻撃隊ともいうべき
陸軍特別攻撃隊に選ばれ、身の光栄これに過ぐるものなきと痛感いたしております。

思えば長き学生時代を通じて得た
信念とも申すべき理論万能の道理から考えた場合、
これはあるいは自由主義者といわれるかもしれませんが。
自由の勝利は明白な事だと思います。

人間の本性たる自由を滅す事は絶対に出来なく、
たとえそれが抑えられているごとく見えても、
底においては常に闘いつつ最後には勝つという事は、
かのイタリアのクローチェもいっているごとく真理であると思います。

権力主義全体主義の国家は一時的に隆盛であろうとも
必ずや最後には敗れる事は明白な事実です。
我々はその真理を今次世界大戦の枢軸国家において見る事ができると思います。
ファシズムのイタリアは如何、ナチズムのドイツまたすでに敗れ、
今や権力主義国家は土台石の壊れた建築物のごとく、
次から次へと滅亡しつつあります。

真理の普遍さは今現実によって証明されつつ
過去において歴史が示したごとく未来永久に
自由の偉大さを証明していくと思われます。
自己の信念の正しかった事、
この事あるいは祖国にとって恐るべき事であるかも知れませんが
吾人にとっては嬉しい限りです。
現在のいかなる闘争もその根底を為すものは
必ず思想なりと思う次第です。
既に思想によって、その闘争の結果を明白に見る事が出来ると信じます。

愛する祖国日本をして、かつての大英帝国のごとき大帝国たらしめんとする
私の野望はついに空しくなりました。
真に日本を愛する者をして立たしめたなら、
日本は現在のごとき状態にはあるいは追い込まれなかったと思います。
世界どこにおいても肩で風を切って歩く日本人、
これが私の夢見た理想でした。

 
空の特攻隊のパイロットは一器械に過ぎぬと一友人がいった事も確かです。
操縦桿をとる器械、人格もなく感情もなくもちろん理性もなく、
ただ敵の空母艦に向かって吸いつく
磁石の中の鉄の一分子に過ぎぬものです。
理性をもって考えたなら実に考えられぬ事で、
強いて考うれば彼らがいうごとく自殺者とでもいいましょうか。
神の国、日本においてのみ見られる事だと思います。

一器械である吾人は何もいう権利はありませんが、
ただ願わくば愛する日本を偉大ならしめられん事を
国民の方々にお願いするのみです。

こんな精神状態で征ったなら、もちろん死んでも何にもならないかも知れません。
ゆえに最初に述べたごとく、
特別攻撃隊に選ばれた事を光栄に思っている次第です。
飛行機に乗れば器械に過ぎぬのですけれど、
いったん下りればやはり人間ですから、そこには感情もあり、熱情も動きます。
愛する恋人に死なれた時、自分も一緒に精神的には死んでおりました。
天国に待ちある人、天国において彼女と会えると思うと、
死は天国に行く途中でしかありませんから何でもありません。

明日は出撃です。

過激にわたり、もちろん発表すべき事ではありませんでしたが、
偽らぬ心境は以上述べたごとくです。
何も系統立てず思ったままを雑然と並べた事を許して下さい。

明日は自由主義者が一人この世から去って行きます。
彼の後姿は淋しいですが、心中満足で一杯です。

言いたい事を言いたいだけ言いました。無礼をお許し下さい。ではこの辺で

 
出撃の前夜記す。