らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【絵画】「タチアオイ」ゴッホ







昨年秋のチューリッヒ美術館展で作品を見てから、かなり日にちが経っていますが、
見た時に書いたメモを元に、この記事を書いています。

こちらの絵に描かれた花は何という名前の花か、ご存知でしょうか。

花の名前はタチアオイ
漢字で書くと立葵
日本でも、梅雨時の今時分にちょうど花が咲くものです。

タチアオイは英語名でホリーホックと言うそうで、
なんでも12世紀頃に十字軍が、
今の中東のシリアにあるホリーホックという聖地から、
この花を持ち帰ったことから、この名がついたとのことです。

この絵はゴッホが、まだアルルに行く以前、パリ在住の頃に描かれたものであり、
いわゆる、ゴッホの広く知られた、
明るい色彩で描かれたものではありません。

一見暗くて地味な花の絵のように見えますが、
その作品をごく間近でじっくり見ると、やはりそれは並の絵ではありません。
ゴッホの恐ろしいまでの観察眼、対象を捉える感性、
花の細かい葉脈の一つ一つまで見逃すことなく観察し、
タチアオイという対象を、余すことなく、取りこぼすことなく、表現しようとする意欲が、
観ているものにビリビリと伝わってくるものです。

じっと観ていると、思わず、絵の中に吸い込まれそうになってしまうような
ゴッホの並外れた集中力を肌で感じざるを得ない作品です。

まだ、この頃は、晩年の作品のように、
神経質で、病的な、ぎらぎらしたようなものは感じ取れず、
あくまでも真摯に、生真面目なまでに、
真っ直ぐに対象と向き合う画家の姿が透けて見えるような気がします。

ところで、ゴッホの花の絵といえば、
まっさきに思い浮かぶのは、
あの鮮やかな黄色いひまわりですが、
数々のひまわりの作品を描く数年前に、
彼は、なぜ、このようなタチアオイの絵を描いたのでしょうか。

実はゴッホは自らの絵の修練のために、
パリの色々な美術館を見て回ったとのことですが、
その中にあった、或るタチアオイの絵がいたく気に入ったそうです。





こちらが、その作品なんですが、
非常に写実的で、チャーミングなタチアオイで、
初夏の心地よい風を思わず感じてしまうような作品です。

ゴッホは、この画家ほどタチアオイを素晴らしく描ける人はいないと、
一生懸命彼の作品を模写したそうです。
その一環として、自らのオリジナルとして描いたタチアオイの絵が、
今回紹介した作品だということだそうですが、
見比べてみれば、一目瞭然、
単なる他の画家の作品のモノマネにとどまらず、
ゴッホ独自のタッチというものの萌芽がすでに垣間見えるように思います。

ゴッホは親しい知人にこう言ったといわれています。
「彼のタチアオイの様な絵を、自分はひまわりで描いてみたい。」

その言葉が、後年、現実のものとなり、
たくさんの黄色いひまわりの傑作が生み出されることになるわけですが、
先にも予告しましたが、
今月、自分は、そのゴッホのひまわりの絵を生まれて初めて見に行く予定でおります。
http://www.sjnk-museum.org/

他の画家の作品の良いところを、自分のものにしようと懸命に描き、
その題材であるタチアオイに導かれるようにして生み出された、
ゴッホの代表作「ひまわり」。

今から、この初めての出会いを楽しみに心待ちにしています。
なんだかちょっとドキドキしますね。