らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【絵画】「晩鐘」ミレー

 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
夕暮れ時遠くから鳴り響く教会の鐘の音に頭を垂れ、
一日を無事過ごせたことに
祈りを捧げる貧しい農民の夫婦。

安らいだ落ち着きを絵全体から感じる。

この絵は、たかだか50センチ四方の小さな作品だけれども、
展覧会の数多くの作品の中でひときわ大きな存在感を放っていた。

二人は貧しいけれども、そこには満ち足りた心を感じる。
円(まる)い心。
円は過不足がない。
満ち足りた調和に満ちた形。

現代人が最も失ってしまった心を彼らは持っている。
現代はひとつのものを手に入れると
さあ、では次は、というように、いわば何かを得続けるため、
飽くなくずっと階段を登り続ける日々を送り、
疲れ果て、そこから脱落した者は不幸せとみなされる。

しかし彼らは違う。
貧しくとも、その日与えられた全てのものに感謝を捧げ、
その一日を終える。
次の日もそうだろう。そして次の日も。

日々の安らいだ祈りを積み重ね、
それを自分の中に満たしていった人々は
いつしか静謐に満ちた心を得る。

それが本当の信仰というものなのかもしれない。

信仰とは他人よりひとつでも多く幸せになろうという願いではなく、
日々ひとつひとつ小さな円い思いを自らに満たしてゆく
自分自身の心の中に成してゆくものなのではないかと。


作品全体の薄暗い色彩は、
農作業に遅くまで明け暮れる貧しさを
感じさせるものではない。

感じるのは、彼らの祈りの深さ、安らぎといった柔らかくて優しいもの。

薄暗い、しかし淡い光に照らされた風景に
二人の深い静かな祈りを感じる。

そして、その祈りの中に
絵を見ている自分自身も知らず知らず引き込まれてゆくような、
そんな思いがした。

この作品には、艶めかしい女神も無垢な天使も登場しはしない、
絵全体が天から降りそそぐ光に包まれるというような
栄光ある情景も描かれてはいない。

しかし、他に展示されているどの絵画よりも、
確かな光に満ちた美しさと力強さと優しさが、
そこにはあった。