らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【閑話休題】ソチオリンピック雑感「女子フィギュアスケート」

 

皆さん、テレビの前でドキドキしながら、浅田真央選手のフリーの滑りを見たことでしょう。

前日のショートプログラムでまさかの16位。
滑った後、茫然自失の状態でインタビューに答えている様子が、
本当に痛々しくて、果たしてそこまでしてコメントを求める必要があるんだろうかと、
インタビュアにちょっとした怒りを感じるほどでしたが、
この時点で完全にメダル圏外。
翌日のフリーでは、とてもモチベーションが維持できないだろうと正直思いました。

当日本番前の公開練習でも,
ジャンプの修正に必死で取り組んでいるも、失敗が多いとのニュースを耳にし、
最後まで健気に頑張っているんだなとは思ったものの、
どうしても痛々しく、見るのが怖くて、
フリーを見ようかどうしようか内心迷っていました。

しかし、その日、かなり夜遅く仕事から帰ってきて、
ひと段落してテレビをつけると、
ちょうど浅田真央選手の出番間近でしたので
はからずもライブでその模様を見ることになりました。


演技直前、立ち位置に立った時、
リンクの真ん中に心なしか心細げにぽつんと立っているように見えた浅田選手。
その表情は若干こわばり、
悔いのないように滑ろうという必死さがビリビリと伝わってきました。

自分も固く拳を握りしめて祈るような気持ちでテレビを見つめていました。

演技が始まり、しばらくしていきなりのトリプルアクセル
成功!!

このトリプルアクセルは、絶対跳んでやるという強い意欲というよりは、
自分が今までやって来たことを信じて全てを委ねて跳んだように感じました。
彼女は勇気を振り絞って自らが目指していた最も高い極みに挑んだんですね。
そしてそれを成し遂げた。
彼女は、自分の心にただよう黒い雲を、
自分自身の勇気で払いのけたのだと感じました。

そのうち最初はこわばっていた彼女の表情が次第に和らぎ、
徐々に、そして次第に、のびのびとした生気に満ちたスケーティングに変化していくのがわかりました。

なんて言うんでしょうか。
ペア競技じゃありませんから、もちろん彼女1人で滑っているわけなんですけれども、
今までのように一人で孤独にポツンとリンクに立っているのではなく、
彼女が今まで喜びも悲しみも苦しみも共にした思いそのものと一緒滑っているといいますか。

それは彼女にとって、とても落ち着いた安らぎの空間であり、
はりつめた緊張感の中にも彼女自身滑りを楽しむ余裕が心の中に生まれている。
そんな感じがしました。

そして、演技が進むにつれ、
それは、もはやそれまでの独りきりの心細げな彼女でなく、
堂々と自信をもって自己表現できる、
見ている人々に大きなエネルギーを与えることができる、
力強い彼女本来の滑りに戻ったのだと思いました。

彼女のスケーティングは非常にスポーティでスピード感溢れ、
見ている者に爽やかな清々しい風を感じさせてくれますね。

最後のトリプルループを決めた時、
あー、彼女はやり遂げたんだなと感じました。

今までの自分のオリンピックのフィギュアスケートのベストは、
アルベールビル伊藤みどりさんのフリーでしたが、
今回の浅田真央選手のフリーは、それをも上回る最高の演技に感じました。

奇しくも曲目は同じラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。
思わず2人の滑りが重なって見えましたね。

浅田真央選手にとってのフィギュアスケートとは、
単に金メダルを取るためとかいうようなものでなく、
もっと人生そのものに深く結びついたものだったのでしょう。
そうでなければ、あの絶望的な状況下で、
自らの心を奮い立たせてあのような演技などできるものではありません。
 
人は調子のいい時はいくらでも威勢のいいことを言えますが、
いざ逆境に立たされると、たちまち意気消沈してまい、
実力の半分も出せなくなってしまうことがあるものです。
人間は逆境の時、それまで自己を覆っていた衣がはがれ、
本当の自分が剥き出しになるのです。

彼女はメダルという目標が砕け散ってしまっても、
最後まで全力を尽くして挑んだ。
本当に強い人です。

そして、人間は一時の気力、気合だけで
全力で自己を完全燃焼させることなどできるものではありません。
日々怠りない技の修練、浮つかず自己をしっかりと見つめる日々の心の在り方、
フィギュアスケートに対する深い慈しみ。
これら日々の思いの積み重ねが、いざという時、その人に力を与えるのだと感じます。

今回それを自分よりひとまわり若い彼女から学びました。

ありがとう、浅田真央選手。そしておつかれさまでした。