らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【人物列伝】26 ジョージ・フォーダイス 自らを実験台にした科学者達

 

ジョージ・フォーダイスは、18世紀に活動したスコットランド出身の医者でしたが、
熱を利用して病気を治せないかと、常日頃から考えていました。

その前提として、果たして人間は、どれだけの熱に耐えられるか、
という命題を自ら検証しようとします。
当時、非常に暑い環境に置かれたら、
人体がどう反応するかということは謎だったのです。

最初は1人でこつこつと、自ら人体実験を続けていたのですが、
複数の臨床例があった方が、実験結果は確かなものとなりますから、
何人かの仲間と実験を行うようになります。
その中には同じ医者仲間もいれば、なぜか探検家も。

確かにこれは探検ですよ。
未知なる高熱の世界に踏み入ってゆくわけですから(^^;)

ストーブを焚いた窓の無い小さな間取りの高温室に入り、
室温を徐々に上げていき、
最終的な実験では、最高127℃にまで達しました。

そこでは、室内に置かれたステーキ肉はウェルダンの焼き加減となり、
瓶の中のワインは沸騰し、一滴残らず蒸発しました。

その時の被験者の感想、
「体に力が入らず、手が震える。めまいに襲われ、頭の中で雑音がした。
不安になるほどの圧迫感を肺に覚え、
それが1分もたたないうちに次第に強まっていった。」(^_^;)

それまでは体温というのは、
寒い地域の人々より暑い地域の人々の方が、当然高いものと考えられていました。
体温を変化させるものは気候などが原因と考えられていたのです。

しかし、実験の結果、たとえ百数十℃の高温の中でも、
体温はほとんど変化しないことが判明。
気候が体温を変化させるという従来の定説は覆されました。

そして、当時、体温が生じるのは、
血液の粒が勢いよく流れる際に血管にぶつかり、
それにより熱が生じるからだという説が有力でしたが、
高温により心拍数は倍以上になっていたにもかかわらず、
体温の異常な上昇は起こらなかったため、
その見解が誤りであることが立証されたのです。

では、体温を変化させる要因となるものは何か。

これは、病気などによる体調の異変により、体温が変化するということが明らかになり、
体調の異変を体温計により検温し、確認することは、
この実験をきっかけとして、広く行われるようになったのです。

あと、この実験で明らかになったのは、人間がかく汗の重要性。
実験では水棲生物は40℃程度、四つ足動物は65℃程度で全て死に至りました。
しかしながら人間はその倍する温度でも耐えることができた。
それは300万ともいわれる無数の汗腺から流れ出る汗により、
絶えず体温をコントロールして調節する、
人体の体温調整に関する絶妙なシステムの賜物であったのです。
人間が体を毛に覆われておらず、皮膚が外気にむき出しになっているのは、
スムーズに汗を出して蒸発させ、体温調整をするための不可欠な仕様であり、
このシステムのおかげで、人間はその活動範囲を、
他のどの動物よりも大きく広げることができ、人類の発展に寄与してきたのです。

ただし、高温多湿の環境下では、
汗が速やかに蒸発して、体温を調整できないため、50℃くらいが限界だそうです。


ここまで読んだ皆さんは、
なんだ、この実験の高温室って、サウナなんじゃないの?
と思った方もいらっしゃるでしょう。

確かに湿度が低く、非常に高温の環境下というのはサウナそのものです。
調べてみますと、サウナは、
今から1000年も前から東欧や北欧などで行われていたようで、
ジョージ・フォーダイスの時代からみても、すでに700年以上の歴史があったわけです。

そのように同じような高温低湿の環境下の部屋にいながら、
サウナに入っていた人々が何百年も気がつかなかったことを、
フォーダイス達は短期間のうちに気がついた。
その違いは何か?

それはひとえに科学的意識をもって対象を観察すること、
もっと広くいえば、目的意識をもって物事を見つめることの重要性ではないかと思っています。

これは科学だけのことではありません。
文学や絵画、音楽などの芸術活動というのも、
世間の人々が、日々なにげに流して見過ごしてしまうような、
微妙な風景の変化や人間心の機微など敏感に捉え、
それを形にし、人々を感動させ、心動かす対象とする営みです。

このようにみると、まさに科学的意識と芸術的意識というものは
近接するものであると感じます。

目的意識をもって対象を観察することで、
一見うつろで希薄だった世界が、
一転、自身に語りかけてくる好奇心に満ちた世界に一変する。

人から、なぜ芸術に触れるべきなのかと問われれば、
その答えは、今言った話の中にあるというわけです。

 


東欧で行われた最強サウナ選手権の模様。
ある意味、フォーダイス達の実験の様子も同じような風景であったのかも(^^;)