らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【漫画】「日露戦争物語」





 
今までいろいろ幕末から明治にかけての記事を書いてきましたが、
それぞれ個々の話は理解できても、
全体として、それがどういう流れで、それぞれどう繋がりがあるのか、
どうも今一つわかりにくいという方もいらっしゃるかもしれません。

この漫画は日露戦争で活躍した
伊予松山出身の秋山好古・真之兄弟と正岡子規を軸に、
人々が、この明治という時代を、どのようにして駆け抜いていったかを横断的に描いた漫画です。

漫画ですから登場人物については、全体的にデフォルメされてはいます。
そして描写の全てが史実というわけではなく、
実際接触があったかどうかわからない人物との交流場面も描かれたりしますが、
流れに違和感なく、それなりに筋が通ってしっかり描かれており、かつ面白い。

秋山兄弟を描いたものといえば、司馬遼太郎の「坂の上の雲」が有名ですが、
それをベースにしながらも、作者独自の調査及び考察が為されており、
思想的に左右どちらかに偏るというわけでもなく、
自分的にはよく描かれているなと感心することもしばしば。

秋山兄弟と正岡子規を描くことで、その周辺の人物、
例えば、学生時代の同級生であった夏目漱石南方熊楠なども登場していますし、
彼らの人生は、明治の政治情勢と深く関わっているため、
伊藤博文陸奥宗光などの大物政治家なども登場し、
明治の政治情勢が非常にわかりやすく描かれています。
そしてさりげなく勝海舟、坂本お龍といったところも登場したりします。

これを読んでいて強く感じるのは、
明治人の自立心、自尊心、どん欲なまでの好奇心、物事に食らいつく気迫が、
現代人とは、桁がひとつもふたつも違うということ。

彼らは、今の我々より、体格も小さく、お金も無く、食べる物も貧相で、
本ひとつ買うのだって大変だったはずなのに、
生きる気迫というものについては、我々を遥かに凌駕していると言わざるを得ません。

彼らの寿命は、今の我々より何十年も短く、下手したら半分くらいの人すらいますが、
実質としては我々の二倍も三倍も生きているような人生の厚みを感じます。

人生は長さではありません。
自らの足でどれだけ動いて、どれだけのものと出合い、どれだけの輝きを発するかで、
その価値は決まるのだということを痛感します。

彼らは、時間が無いからとか、お金が無いからとか、
何をしたらいいかわからないからとか、境遇が恵まれてないからとか、
そういう言い訳じみた事を一切口にしません。
とにかく果敢に動いて、物事に体当たりして、そこでできることを懸命に為し、
そこから生まれ出たものを基台に、また新たに懸命に考え、
そこで為せることを全力でまた為そうとする。

何かを見い出し、生み出そうという気迫と情熱に満ち溢れているんです。

この漫画の中で、自分が特に感じ入った2人の人物。

まず秋山好古。秋山兄弟の兄です。
彼の家は貧しい武士で、少年期は風呂焚きの仕事をしながら、
勉学に勤しんでいました。
その後、大阪の師範学校に入り、ついで陸軍士官学校に入学。
陸軍に入隊した後も、弟真之に勉学させるため
極めて質素な生活を送っていましたが、
それを恩に着せるわけでもなく、自ら誇るわけでもない。
自らは今在る場所で己の全力を尽くし、
かつ家族の全体に目を配り、その配慮を怠らない。
自分も長男ですけど、
あ~、自分は秋山兄の足元にも及ばないなと思います(-.-;)
 
次に白川義則
彼は秋山弟と同級で、
身分の高い武士の家に生まれ、非常に裕福でした。
しかし後に家運は事業に失敗し落魄。今でいう破産です。
父親は失意のうちに亡くなり、
残されたのは年老いた母と妹、体の不自由な盲目の2人の兄。
彼は学校を中退して、日雇い仕事、代用教員などをして生計を立てます。

彼の素晴らしいところは、自分は必ず成功するという自信とそれを支える自尊心。
羽振りがよい時は誰しも自分の姿を
もっと見て欲しいと浮き立つものですが、
一転落魄すると、なるべくその惨めな姿を人に見られたくないと思うものです。
でも彼は違う。
自分は絶対にこのまま終わらない、絶対に成功すると思っているからこそ
最低の粗末な身なり、身の上になっても、
堂々と昔の友人と会うことができる。

この2人もそうだし、その他登場人物もそうですが、
こういう人々の気迫や情熱というようなものが、
多分に明治という時代を引っ張っていったような気がします。
幕末の志士達の志というようなものは、
確実に彼らに受け継がれていたのだと感じます。

ただ、この漫画、日露戦争物語と銘打ってはいますが、
実際は、そのはるか前の日清戦争の辺りで連載は休止、未完となっており、
再開のめどは立っていないようです。
その理由は多分に作者自身にも問題があるようで、
連載中も、日清戦争の戦闘の辺りから、漫画の線の歪みもさることながら、
内容的にも?な部分が目につき、
作品としての全体的な質の低下というものを感じざるを得ませんでした。
これは愛読していた者としては非常に残念なことではあります。

しかしながら日清戦争開戦前夜の10巻くらいまでは、
申し分ないクオリティーをもつ作品であり、
自信を持って皆さんにお勧めできるものです。

大人はもちろん、子供でも中学生くらいであれば十分読めるものですし、
歴史が苦手な方はその勉強にもなります。
登場人物の青春時代を描いた4巻くらいまででも結構です。
目を通していただければ、必ず得るものがあるのではと思います。

なお、最後にこの漫画の中で一番愛すべきキャラは、
やはり正岡子規でしょうね。
意外にこれが実像に近いような気もします(^_^;)

愛媛県の方々は、このような明治人らを生み出したことを、
もっと誇らしげにしてよいと思いますよ。