らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【クラシック音楽】あるクリスマスの思い出

 
あれはいつの時だったか、
今から5年くらい前のことになるかと思います。

年末も押し迫ってきた暮れの時期、
自分は、青森の弘前(ひろさき)に、出張で出向いておりました。
月曜朝一番に関連の役所に入らねばならなかったので、
前もって週末に弘前入りしていました。

弘前といってもピンと来ない方もいらっしゃるかもしれませんが、
青森県の一地方都市にとどまらず、
経済的にも文化的にも独特の賑わいを見せている、
活気溢れる町です。

自分は休日の一日かけて、弘前の名所をあちこち見て回り、
夕方の暮れ頃、弘前城天守閣の辺りにおりました。

弘前というのは、江戸時代、津軽氏という大名が治めていた、
非常に賑わっていた城下町であり、
天守閣も非常に立派なものです(画像参照)。


もうすでに雪がしたたか降り積もっており、
さらに新たに雪も舞ってきて、
どんどん日も暮れ、人気も全く無くなってしまったことから、
もう宿泊のホテルに引き上げようと思っていました。

が、その時です。
自分の方に歩み寄ってくるおばあさんがいました。
もう腰はかなり曲がっており、
年の頃、少なくとも70代半ばくらいでしょうか。

おばあさんは、申し訳なさげに、
「あの~、わたし市民会館に用事があって今から行きたいんですけど、
タクシーで間違った門の前で降りてしまったみたいで…
申し訳ないんですけど、市民会館の場所教えていただいてよろしいですか?」
というようなことを津軽弁?でおっしゃいました。

もちろん、自分は弘前に初めて来た者ですから、
市民会館なるところが、どこにあるのか全く知りません。

しかし周りに人も全く居らず、
日もどんどん暮れ、真っ暗になってきたので、
そのまま、おばあさんを置いてけぼりにすることはできません。
おばあさんの話を聞くと、
どうもその市民会館は弘前城の敷地内にあるようです。
自分の持っていた弘前城ガイドの冊子を見ると、
追手門のあたりに市民会館らしき文字が見えます。
もうはっきりと文字が読み取れないくらい、
辺りは暗くなっていました。
今2人のいるところは搦め手の北門の辺りで、全く正反対のところです。

自分は、おばあさんに、
自分も不案内ですけれども、
一緒に探しながら行きましょう。
ということで二人して、とぼとぼ歩き出しました。

もうとっぷりと日も暮れてしまいましたが、
不思議なことに雪明かりで、
回りが白くぼうっと明るいんです。
その雪明かりを頼りに、
自分の共連れは、少々足腰のおぼつかないおばあさんですから、
休んでは歩き、休んでは歩きを繰り返して進みました。

30分ほど歩いたでしょうか。
にぎやかな灯りが大きくなり、追手門付近に到着しました。
大きな建物を見ると、弘前市民会館とあります。
何か催し物があるのでしょうか。
周りは、かなりの人々で賑わいを見せていました。

自分は、おばあさんに、
「あそこが市民会館じゃないですか?」
と尋ねると、
おばあさんは、
「間違いない、あそこです。」
と大変喜んでくれました。

市民会館の入口では、おばあさんの知り合いでしょうか。
きちんとスーツを着て正装した方が、おばあさんの姿を見つけるなり、
「〇〇さん、心配してましたよ。いらっしゃらないから。」
と駆け寄ってきました。
自分は、おばあさんも無事送り届けたし、役目も終わったので、
じゃあ、これで…とその場を立ち去ろうとしました。

すると、おばあさんは
「ちょっと、ちょっとだけ待ってください」
と、出迎えに来た人と何か話を始めました。

しばらく2人は話をしていましたが、
スーツ姿の人が自分に近寄ってきて言うには、
「〇〇さんをご親切に送っていただいてありがとうございました。
実は今から、ここで、ヘンデルメサイアの演奏会があるのですが、
よかったら聴いていかれませんか。
ご興味ないかもしれませんが…」
と誘ってくださいました。

ヘンデルメサイアとは、
あのハーレルヤ ハーレルヤ♪
というコーラスで有名な、あの曲です。
http://www.youtube.com/watch?v=du_55EZFL0Q

まさかこの見知らぬ北の雪国で、
クラシック音楽のコンサートを聴けるなど
思いもかけないことだったので、
ご好意に甘えることにしました。

後で知ったことですが、
弘前では、この時期に、ヘンデルメサイアの演奏会が恒例として催されているそうなんです。
(参考記事)
http://www.mutusinpou.co.jp/creator/2008/12/4555.html
http://www14.ocn.ne.jp/~hmessiah/index.html
自分も末席で、この歴史あるメサイアを堪能させていただきました。

それはいわゆる、都会のしんと静まり返った会場ではなく、
せんべいを割る音や、手荷物をがさごそする音も混じったアットホームな催しでしたが(^^;)、
それもまたよし。

雪国の空にこだまするかのようなハレルヤコーラスは、
自分の忘れ得ぬ思い出のコンサートとなったのでした。