らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【漫画】「銀の匙 Silver Spoon」



先日、宮澤賢治の「フランドン農学校の豚」という作品の記事を書きました。
人間と家畜とのかかわり合い方、
ひいては人間と動物との共生をテーマとする物語でしたが、
記事を読んで下さったブロ友さんとのやり取りで、
こんな漫画がありますと、紹介していただいたものがあります。

それが、この漫画「銀の匙 Silver Spoon」です。

銀の匙」というと、明治時代の中勘助の作品が
思い浮かぶ方もおられるかもしれませんが、
直接それとは関係はないようです。

題名は、作中、全寮制の農業高校の
食堂の入口に掛かった銀の匙に由来します。

作者の荒川弘さん自身、北海道の酪農の家の生まれで、
農業高校の卒業生でもあるそうで、
ストーリーは、その実体験に基づいたものだそうです。

主人公の少年は、いわゆる受験進学校での競争に破れ、
またエリート志向の家族と一緒に居づらくなってしまったため、
それから逃げるように、半ばやけっぱちで、
全寮制の農業高等学校に入学します。

そこは、将来農業に従事することを目指す
農家の子供が多く通う学校であり、
多くの生徒が、将来の明確な目的をもって修学しています。
明確な目標がないのは、ある意味、主人公の少年のみ。

しかし、学校や同級生、そしてその家族達と触れ合ってゆくうちに、
少年は今まで見ることのなかった
様々な世界をかいま見、その心は次第に変化してゆきます。

という農業もの青春成長コメディという感じの作品です。

主人公の少年は、都会育ちのホワイトカラーの家庭ですから、
初めは農業についての知識は、全く皆無です。
ですから、おそらく同じ立場であろう読者と
同じ目線で物事を捉えているため、読んでいて非常にわかりやすい。

恥ずかしながら、自分もこの漫画で、
鶏の玉子を産む産道と肛門が中で繋がって、
排泄物と玉子が同じところから出てくるということを初めて知りました。

あと、豚の体脂肪率が15%で、
人間の女性の平均より、はるかに締まっていることとか(^_^;)

また、「フランドン農学校の豚」と同じく、
飼育していた子豚を食肉にしなければいけないという描写もあります。

もう少し葛藤といいますか、苦悩といいますか、
そのような描写があるのかなと想像していましたが、
予想に反して、主人公以外の登場人物達の態度は、
思いのほか、あっさりと淡々としたものです。

動物から一番遠い距離で生きてきた
主人公の少年だけが少々感傷的です。

しかし、これは主人公以外の登場人物達が、
薄情であるとか、動物の命をないがしろにしているとか、
そういうことを意味しません。
なんていうんでしょうか。
常に動物と共に生きている、そしてこれからも共に生きてゆく人々の、
最も無理のない自然な気持ちといいますか…
淡々と動物を育て、そして美味しく無駄なく食すという、
むしろ自然と最も調和したナチュラルな態度のようにも感じられます。

ひょっとしたら、動物に対して必要以上に感傷的な人々は、
動物と共に生きるということから、
最も遠いとことで生活する人々なのではないかと
感ずるところさえもあります。

この漫画、頭が良く、全てを一気に解決してしまうヒーローのようなキャラや、
主人公の周りで奇跡みたいなことが起こって、問題をきれいに解決してしまう、
というような話は一切ありません。

ただひたすら淡々と農業高校の日常が、
家畜として飼われている動物達と直に向き合う日々が描かれています。

しかし、この作品、今年のマンガ大賞を受賞したそうで、
現在単行本5巻まで出ていますが、累計数百万部売れているそうです。

動物と距離あるところで生きざるを得ない、
現代の大多数の人々の、琴線に触れるものがあったのでしょうか。

そして自分がちょっと驚いたのが、
この作品、週刊少年サンデーという少年誌に掲載され、
人気を博しているということです。
少年誌というのは得てして、
魔法やら冒険やら戦いといった
刺激的なストーリーに満ちているものですが、
そのいずれもない「銀の匙」のような作品に人気があるとは。
なかなか今の少年達の感性も侮れないのかもしれません。

自分も、もし人生を何度か選べることができるなら、
そのひとつは、この漫画の農業高校に入学したい。
と思ってしまうようなところもあります(^^)
思わずそういう気持ちになってしまう、
とても魅力のある作品です。