らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【クラシック音楽】ヴァイオリンを彩る名花達 後編



前回予告しました、
神尾真由子さんの素晴らしい迫力、集中力と
庄司紗矢香さんの豊かな歌心の、
両方を兼ね備えているともいえる演奏家とは。

その人の名を、五嶋みどりさんといいます。

神尾さんや庄司さんのようなコンクール優勝経験はありません。
というか、コンクールに出たことがないと思います。

世に出たきっかけは、母親が音楽の名門ジュリアード音楽院に、
幼い娘のヴァイオリンの演奏を入れたテープを送ったことに始まります。
庭の飼い犬の鳴き声も混じった演奏のテープを聴いた教授は、
非常に仰天し、すぐさま彼女を米国に招きます。
この時、五嶋みどりさん10歳。
翌年米国でコンサートデビューを果たします。

巷では、弟の五嶋龍君の方が、
名が知られているかもしれません。
JR東日本の、このCMを見たことがおありかもしれませんね。
http://www.youtube.com/watch?v=DsO3SYVOTFI

彼は非常にスマートな演奏をします。
日本のおば様達に熱狂的に支持され、まさにアイドル的存在。
コンサートチケットはなかなか入手困難です。

が、芸術家として姉みどりと比較されると、かなり分が悪い。

といいますか、彼女は、おそらく彼女の死後も、
素晴らしい演奏家として、その音が人々の記憶に残り、
末長く語り継がれる人です。


では彼女の何が凄いか。

まず音楽に対する集中力。

象徴的なエピソードがありまして、
ボストン交響楽団と共演した或る音楽祭でのこと。
演奏中に、ヴァイオリンの弦がニ度切れるというアクシデントに見舞われましたが
何事もなかったのように、ヴァイオリンを二度取り替え、見事演奏を完遂しました。
その時、みどりさん14歳。

その時の演奏の様子が映像に残っています。
映像中の、スゴいスゴいと煽る司会者がちょっと煩わしいですが、
演奏の様子を是非ご覧ください。
http://www.youtube.com/watch?v=04pXykKsO_k

物怖じしないとか、肝が太いとか、心臓に毛が生えているといった感想もありますが、
自分が一番感じるのは、なによりも、
その集中力の素晴らしさ、いや凄まじさというべきもの。
基本このスタイルは現在においても変わりません。
ヴァイオリンに仕える巫女みたい。
という人がいますが、ある意味、なかなか言い得て妙だと思います。


凄いところ、その2は、ヴァイオリンの完全なコントロール

すごい集中力で情熱的に弾く演奏家はいますが、
みどりさんは、すごい集中力で情熱的に、
かつクールに演奏します。

情熱的に弾くと、時には音がかすれたり、勢い余ったりということがあります。
まあ、それはそれで魅力なのですが。
しかしみどりさんの音はどんな高音でも低音でも、
うるさく響くということがほぼ皆無です。
全て彼女の意志の中にコントロールされ、心地よく響く。
ヴァイオリンがまさに自分の体の一部のごとく。

凄いところ、その3は、豊かな歌心ある音色。

完全に楽器をクールにコントロールする=機械のような演奏
と連想されがちですが、
彼女の奏でる音色は豊かな歌心があり、表情が豊かです。
ある時は囁(ささや)くように、
ある時は堂々と雄弁に、
ある時は温かく励ますように、
ある時はそっと寄り添うように、
彼女の音は自在に変幻します。

情熱的で、クールで、表情豊かだなんて
説明がちょっと矛盾しているんじゃないの?
と思われるかもしれませんが、
矛盾はしてないんです。
ぜひ彼女の音に耳を傾けて
御自身で感じていただければと思います(^^)

ここでは、神尾さんや庄司さんとの聴き比べも兼ねて、
チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の演奏を添付します。

しかし、これを聴いても、
記事で申し上げたことがすぐにはピンと来ないかもしれません。
なぜならこういった録音というものは、
音をコントロールするのは録音者であって、
演奏者ではありませんので。

しかし、それでも演奏の端々に感じていただけるところがあると思います。
特に映像2つ目、第1楽章後半の独奏部分などは特に素晴らしいです。
http://www.youtube.com/watch?v=ikX_WXFCMbI&list=PL6CA90F1935EB53AC&index=1

掲載したこの演奏、実は、自分もコンサートホールに聴きに行っていました。



変なことを言うようですが、
みどりさんの音というのは、自分の人生の目標でもあります。

凄まじい集中力をもって、情熱的に、
かつクールに自分をコントロールでき、
そして彼女の歌心のように
触れた人々の心に、何がしかのものを残すことができるような…