らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【人物列伝】21 孟嘗君(もうしょうくん)後編

 
続きです。

天下の士は争って孟嘗君の元に集い、その数およそ数千。
孟嘗君のいる斉の国の勢いは益々盛んになり、その名声は諸侯に伝わってゆきました。

秦の昭王(始皇帝の曾祖父)はその噂を聞き、孟嘗君を秦の国に招きました。

ここから前編冒頭で述べた
清少納言の歌の

夜をこめて
鳥の空音は
はかるとも
(夜が明けないうちに
鶏の真似をして
騙して通る)

という部分の、いわゆる「鶏鳴狗盗」の話が始まります。

以下簡潔に紹介します。

秦の昭王は最初は孟嘗君を歓待をしていたが、
孟嘗君は秦にとって危険人物と勧告する者があったため、
王は気が変わり、彼を監禁し、殺そうとした。
孟嘗君は配下に命じ、王の寵妃のもとへ行かせてとりなしを乞うた。
寵妃いわく
「あなたがお持ちの狐白裘(こはっきゅう)をいただけたら、とりなしを致しましょう」

狐白裘とは狐の腋の白い毛だけを集めて作った毛皮のコートのようなもので、
1着に狐が1万匹は必要と言われるほど、希少な千金の価値を持つものだった。

実は、孟嘗君は狐白裘を既に王に献上しており、手元にはなかった。
困って客分達に尋ねるも、誰も良い知恵が浮かばない。
すると末席にいた盗みの上手い男が言った。
「私なら狐白裘を取って来れます。」

そこで夜に紛れて狗(すばしこい犬)のように宝物庫に忍び込み、見事狐白裘を奪って寵妃に献上した。

女はうまく王にとりなしてくれたから、孟嘗君は無事釈放された。

孟嘗君は釈放されるや、大急ぎで秦からの脱出を図った。
夜ふけに一行は国境の函谷関の関所に着いた。

一方、昭王は孟嘗君を釈放したことを後悔して、
すぐさま追っ手を差し向け、孟嘗君を殺そうとした。

関所の規則では、鶏が鳴いたら旅人を通すことになっていた。
まだ夜半で鶏が鳴くような時刻でなく、関所は閉じられていた。
しかし追っ手が迫ってきており、余裕はない。

すると客分で、鶏の鳴きまねの上手い者が申し出て、鶏の鳴きまねをすると、
それにつられて、たちまち関所の鶏が一斉に鳴き出した。

こうして孟嘗君一行は函谷関を通過し、秦を脱出した。

それからしばらくして、函谷関に追っ手が到着したが、
一行は既に脱出した後であったので、為す術がなく引き上げた。

もともと孟嘗君が、2人の男を他の客分と同待遇とした時は、
学者や武芸者などの客分は、皆、それを恥だと思った。
しかし今回の危難においては、2人の力で助かったので、
なるほど人には使いようがあるものだと、孟嘗君の眼力に感服したのであった。




一見、そんな調子のいいことが…というような、漫画みたいな話です(^_^;)

確かにこの話を文字通りに解すると、
たまたま一行の中に、犬のようなすばしこい盗人や鶏の声帯模写の名人がいたから、
逃れることができたという話になってしまいそうです。


しかし自分はこの話を、次のように考えています。

すなわち孟嘗君は、才能のかけら、もしくは才能とさえいえないようなものさえも、
組み合わせることによって、大きな目的を達成することができる能力を持っている人であったということ。

一般的にみれば、盗人や物まねなどは、取るに足らない才能のかけらともいえないようなものかもしれません。
しかし、そのようなものでも、状況に応じ、巧みに組合わせることで、
虎狼の国と恐れられていた秦から脱出するという、
完全武装していても失敗してしまうかもしれない、難事を成し遂げることができたのです。

孟嘗君一流の、人の才能の組合せの巧さ。

不満を抱いていた客分の面々が、
人には使いようがあるものだと、孟嘗君の眼力に感服したのは、
このような意味合いではないかと推察します。

もしかしたら鶏鳴狗盗のエピソードそのものは、フィクションであるのかもしれません。
が、「鶏鳴狗盗」が、孟嘗君の代表的エピソードとされているのは、
やはりそのような能力に長けていたからではないかと考えています。

真に人の上に立つべき者の理想は、
自身が具体的な実務能力を発揮するというよりは、
配下の人間の能力を巧みに組合せて、1+1を2ではなく、4にも5にも増幅できる人ではないか。
「鶏鳴狗盗」における孟嘗君のエピソードは、まさにそのことを物語るものといえるのではないかと思います。


最後に蛇足ながら、
孟嘗君がとりなしを頼んだ昭王の寵妃が、
狐白裘という、今でいう毛皮のコートみたいなものをおねだりしたという話。

二千数百年前から、女の人って変わらないというか…(^_^;)
女の人にはやっぱり誠意だけでは足りないといいますか…
誠意を形にしたものがあれば更によし。
というところなんでしょう(^_^;)

毛皮のコートを贈って、口添えしてもらうって、現代でも十分通用しそうですよね(^^;)
 
 
 
 
画像は現在の函谷関の様子です。
残念ながら当時のものではありませんが。