らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【父の病】2

名古屋に着くと、父母と同居している弟が迎えに来ていましたので、
その足で病院に直行しました。

父の様子を、弟に聞いても、意識があるのかないのか、少々要領を得ないところがありました。
おそらく弟も混乱していたのでしょう。
とにかく百聞は一見に如かず。
この目で見ないことには…と思いました。

父が担ぎ込まれた病院は数年前にできた最新設備のある総合病院で、
それはキレイな病院でした。

しかし父の病室に近づくにつれ、
情けない話ですが、足が次第に重くなり、
胃に鉛の塊でも飲み込んだような重苦しさを感じるようになりました。

病室に入ると母が出迎えてくれました。
弟の嫁と孫は一足先に一旦帰宅したとのことでした。

「あそこだよ」
と弟が指差す先に、果たして父はいました。

何本もの管を通されている父。

あれ…こんなに老けていたかな…
と思ってしまうほど痛々しくやつれた姿でした。

弟と2人で交互に呼びかけましたが、
目が半開きでぼんやり宙をみつめたままで反応はありません。
ただ計器の数値を見ると、心電図や血圧は正常なようでした。

ちょうどその時、主治医の先生が見えたので、
別室で、父の病状の説明を詳細にしてくださいました。

それは自分にとって衝撃的な話でした。

話によると、脳梗塞で倒れたその時、父の脳の40%が一気に吹っ飛んで、機能停止したそうです。

父の脳の写真を見ると、確かに左脳の半分近くが真っ暗でした。
左脳が吹っ飛んでるので、右半分は麻痺した状態で全く動きません。

しかし脳の腫れを抑え、血管に血液を通す治療が効を奏し、
現在の段階まで回復したとのことでした。

一通りの主治医の説明を聞いてから、
わからないところをいくつか質問しました。
なお、以下の内容は、やり取りの概略であり、括弧内は自分の解釈です。

なお、記事に書いた主治医とのやりとりは、
自分の記憶を頼りに再現したものであり、
正確性に欠ける部分もある可能性もありますので、
注意してお読みください。


・父はこの先、今の状況より回復するか

現在脳が腫れて、正常な脳を圧迫している状態なので、
ここ数日は命の危険がある。
しかし、それを脱すれば、当座は大丈夫。


・回復したとして、その後の治療で、病前の状態に戻ることができるか。

現在の段階で脳の40%以上が機能を停止しており、
その部分については機能が復活することはなく、病前の活動は望めない。


・では、どの程度の活動まで望むことができるか。

現実的には現状維持の状態と思われる(つまり管を通して寝たきり)。


・父の精神状態は、現在どのようなものであるのか。
現在自律呼吸し、まぶたを上下させたり、手を触ると反応などもある。
それは意志に基づくものといえるか。

そのような反応はいわゆる生体反応、反射のようなもので、
意志による反応ではない。


・では父の意志は脳の一部機能停止とともに、失われて消失してしまったのか。

(しばらく主治医は考えてから)
消失というよりも、例えていうなら、
意志としては、ぼんやりとして薄暗いという認識がある程度と考えてもらえばいいと思う。
いわゆる思考という活動には、ほど遠いものしかない。
(おそらく意志の消失ということについては、脳死を念頭に置いているのだと思います。
父の場合には曲がりなにも半分ほどは脳の機能が維持されているので、
意志の元のようなものは残っているけど、
それを有機的にひとつの意志として結合できない状態というのを、
例えで説明したのではと思われます)


・それでは今後治療等で脳の機能が改善され、もしくはリハビリ等で、
意志を何らかの形で、表現したり、伝えたりできるようになる余地はあるか。

一度機能停止した脳が回復することは、まずあり得ず、
極めて困難と思われる。



これらを全て聞き終わった時、
今までの元気な父は二度と戻ってこない。
たとえ、体が寝たきりだとしても、意志疎通だけでもと思ったが、
それも望めないと観念しました。

そして、こんな言い方をするとお叱りを受けるかもしれませんが、
父は死に損ねたのだと感じました。

おそらく一昔前なら、病院に担ぎ込まれても、
脳に対する治療が今ほど確立されておらず、
脳が腫れて、そのまま亡くなっていたのでしょう。
ところが医学の進歩?で、生き物としての命を守ることはできましたが、
意志はどこかにバラバラになって吹き飛んだままで、
それを元に戻す術は、現代の医学にはない。

主治医の話を聞き終えた自分と弟と母の三人は、
無言で父の病室に戻りました。



父の抜け殻のような
父の顔を
じつとみつめる




父の意志が戻る見込みがないことがわかって、
厄介な問題が発生したことに気づきました。
この問題はどなたであっても生じるおそれがありますので、
次の記事で書きます。