らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【万葉集2012】4 一昨日も 昨日も今日も

今回注目した歌は



一昨日(をとつい)も
昨日も今日も
見つれども
明日さへ見まく
欲しき君かも


橘文成


一昨日も
昨日も今日も
お会いしたのに
また明日までも会いたいと思う
魅力的なあなた



先日ネットの新聞記事を見ていたら、次のようなトピックスが目にとまりました。

「信じてる」「翼広げ」「そばにいて」……。
あれ、このフレーズ、どこかで聞いたような。
最近、紋切り型のJポップ歌詞が増えている気がしませんか?

先月、都内であった芸人マキタスポーツさんのライブ。
そのマキタさんの自信作が、昨年発売した「十年目のプロポーズ」
「強がりや 弱虫も 僕が全部 受け止めるから/大丈夫だから さあ 翼広げよう」

長年の研究で突き止めた「ヒット曲の法則」を元に、
「キセキ」「桜舞い散る」「扉を叩(たた)こう」など、Jポップの定番フレーズを随所にちりばめた。
法則が的中したのか、曲は配信ランキングの上位に。
朝日新聞デジタルより)


この記事のよくある紋切り型の歌詞のフレーズの中には、
「会いたい」も必ずや入っていることでしょう。
万葉集で詠われた1000年前から登場しているわけですから、
最古参の紋切り型といえるのかもしれません。


しかしながら、思いを伝える新しいフレーズといいますが、
そうそう簡単に思いつくものではありません。

中には思いを直接表現するのでなく、動物や花などの植物になぞらえるフレーズなども数多くあります。

歌詞の中には、虫などのようなものも登場することがあります。
代表的なのは、やはり「蝶」あたりでしょうか。

aikoの「かぶとむし」を聴いた時は、そんな発想あるんだとびっくりしたものです。

他にはどんな虫が考えられるでしょうか。

思いを伝える…という歌ではなかったような気もしますが、
万葉集などで蝉などが詠まれていたような記憶があります。

しかし、
「あなたを蝉が土の中で何年も待ち続けるように、わたしじっといつまでも待ち続けます」
ですと、愛の深さというより、執念みたいなものを感じてしまいますし笑、
「蝉のように命のある限りあなたの名前を叫び続けます」
ですと、情熱というよりは情念といいますか、
ちょっと怖いと感じてしまいます(^_^;)

こう考えると、思いを伝える新しい発想というのは難しいものです。

ところで、古典文学にも意外な虫を歌に詠んだ話があります。


伊勢物語にて

昔、男が奥州まで、さすらって行った。
そこに住む女が、都の男を珍しく思ったのであろうか、一途に男を思い慕う心があった。

そこでその女、


なかなかに
恋に死なずは
桑子にぞ
なるべかりける
玉の緒ばかり


なまじっか
恋死になどしないで
蚕(かいこ)に
なる方がまし
短い命だとしても


このように人柄だけでなく、歌までも田舎びいていた。

それでもやはり、気の毒と思ったのであろうか、その女のところへ行って泊まった。



結局泊まったんですか(^_^;)というツッコミは抜きにして、
蚕の短歌について、都の男は、斬新だとか意表をつかれたなどと感動することもなく、
田舎くさいとバッサリこき下ろしています。

この女性、
まだ夜が明けぬうちに男が女のもとを去ってしまったので、
早く鳴きすぎて夜が明けるのを知らせてしまった鶏を絞め殺してやりたい。
という歌も詠んでますので、
蚕そのものが悪いわけでなく、女性自身の全体の雰囲気が良くなかったということも
いえるのかもしれませんけれども。

しかし万葉集以来、何千何万と歌が詠まれてきたわけですから、
思いを伝えるための、それまで詠まれたことのない、
虫に限らず、新しいフレーズを思いつくということは、
やはり、なかなか至難の業であることは間違いのないようです。