らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【万葉集2011】18 昨日こそ君はありしか


今回感じ入った歌ですが「空に浮かぶ雲」を題材としたものを紹介します。



昨日こそ
君はありしか
思はぬに
浜松の上に
雲にたなびく



大伴三中



昨日まで
君は世にあったのに
(一緒にいたのに)
思いがけなくも
(今日は)浜松の上に
雲となってたなびいている



この歌は奈良時代若い役人が過労死した際に、
同僚を悼んで詠んだ歌とのことです。
奈良時代にも過労死があったとはちょっとびっくりですが、
昨日まで一緒だった同僚が今日は傍らにおらず、
海の上の青い空に雲となって浮かんでいるというのは、
雲が形をとどめず流れて往ってしまうものであることから、人の命の儚(はかな)さを感じさせます。
背景にあるであろう青い空と青い海が、
一層その儚さを浮き上がらせているようにも感じました。


雲というのは本当に不思議でいろいろな表情を見せてくれますし、
朝焼けや夕焼けに映えて様々な美しい色彩を見せてくれます。
もちろん雲ひとつない澄み切った快晴も悪くないのですが、
雲がゆっくりと流れてゆく青空というのは
人間のもつ悲しみやら不安やらというようなものを吸いとってくれる
不思議な力を感じるような気がします。

万葉時代の人も空をながめることで心を慰めていたというか、
洗っていたというようなところがあるのかもしれません。
万葉集に雲を詠んだ歌は200首ほど残されており、
雲の種類も朝雲、天雲、青雲、下雲、白雲、豊旗雲、波雲、布雲、八重雲など多岐に渡るようです。

私事ですが、自分がわりかし落ち着いた心で日々を過ごせるのは、
朝の散策で心の中の瑣末なゴミみたいなものを
朝の青空に吸い取ってもらっているからかもしれないと思ったりします。

でも昼間の街の喧騒の中での空ではそれをあまり感じないんです。
やはり夜明け前後の空が一番美しく澄み切っていて、そのような気持ちになれますね。

画像はある夏の終わりの日に見た朝焼けの情景です。