らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「神曲 地獄編」ラスト・インフェルノ ダンテ





 
第八圏第八の壕は権謀術数をもって他者を欺いた者の地獄。

はるか谷底に蛍の群れのように至るところに点々と火が輝いているのが見える。
よく見ると、その火の中では権謀術策で世を渡ってきた亡者たちが
地獄の業火に包まれて焼かれている。

一見美しい蛍の光だと思ったものが、
亡者達が業火に包まれているのだとわかった時身の毛のよだつ思いがする。
その中にはトロイ戦争でトロイの木馬の計略でギリシアを勝利に導いたオデッセウスとディオメデスもいる。

戦争は騙し騙されお互い様のところがあり、
たまたま計略に成功した方が一方的に深い地獄に落とされるというのは少々気の毒な感じもする。
ダンテの時代は十字軍の頃の騎士道精神華やかな正々堂々的な雰囲気が残っていたのだろうか。

第九の壕は不和分裂の種を蒔いた者が悪鬼により刀で体を真っ二つに裂き切られる。
ここにはイスラム教の創始者マホメットがいて、
キリスト教徒の溜飲を下げるがごとく悪鬼に真っ二つにぶった斬られている。
ここで異教徒のマホメットは異端の第六圏になるのでないかと思うかもしれない。
しかし中世では彼はキリスト教を分裂させた者と認識されていたらしい。
日本人は知らない人も多いがキリスト教イスラム教は意外な近接性がある。
例えばキリスト教で聖人とされるノア、モーゼなどはイスラム教でも聖人とされる。
キリスト教で救い主とされるイエスイスラム教では聖人の1人である。
ただイスラム教では救い主はマホメットである。
このような両宗教の近接性からイスラム教の創始はキリスト教の分派行動とみなされたのだろう。
他人を分裂させ引き裂くような行為をしたので、
ここの責め苦は自分の体が引き裂かれるという因果応報的なものになっているのであろうか。

第十の壕は錬金術など様々な偽造や詐欺を行った者が悪疫にかかって苦しむ。
亡者の体は腐敗しカビが生え蛆虫が湧く。

最後の最後で錬金術師というのは先の第八、第九の壕に比べると
どうしても悪としては小物に感じてしまう。
これはダンテ自身、錬金術師の存在を頻繁に目にし耳にし、
その弊害を認識していたのかもしれない。そして当時の乱れた社会を正しく導き、
カトリックの厳正な秩序を回復するために一番深い地獄に持ってきたのかなとも思う。


そしてついにラスト・インフェルノ(最後の地獄)第九の圏は裏切り者の地獄。
コキュートス(嘆きの川)と呼ばれる永劫の氷の世界。
同心の四円に区切られ最も重罪の裏切りを行った者が永遠に氷漬けとなっている(画像参照)。

今日本は大変な猛暑なので、火の熱い地獄よりは氷漬けの方がいいんじゃないかという声も
聞こえてきそうではある(^_^;)
しかし氷の世界とは生命の育みのない閉ざされた沈黙の世界で、
生命の営みを止める、まさに死の象徴として最終の地獄で用意されたのだろう。

第一円は肉親、第二円は祖国、第三円は客人を裏切った者が落ちるが、
これまでと異なり責め苦にバリエーションはない。
ただ罪が重くなるにつれて地獄の最深部に近づいていくことになる。

そして最後の最後の地獄の第四円には人類史上最も罪深い者が地獄の底に沈んでいる

その最深部に閉じ込められているのは神を裏切り、
神により奈落の底に落とされた堕天使ルチフェル(画像参照)。
その姿とは醜く恐ろしい3つの顔を持っており、
正面は真っ赤な顔、右は白と黄の混ざったような顔、左の顔は黒色をしている。
どの顔の下からも2枚ずつ大きな翼が生えている。羽毛は生えておらず蝙蝠と同じような作りになっている。
6つの眼から涙し3つの口で人類史上最も罪深い人間をガムのように噛み続けて、
その口からは血の混じった唾液と涙がしたたり落ちている。

なにか恐怖というよりはおどろおどろしい不気味な印象。

そしてルチフェルにガムのようにくちゃくちゃ噛まれ続ける最も罪深い人間とは、
正面が救い主イエスを裏切ったユダ。左右がカエサルを裏切ったブルータスとカシウス。
これを読んでユダはわかるけど、あとの2人はなんで?と思う方もいらっしゃるかもしれない。

カエサル自身第一圏の地獄に漂う者であり、自分としても不思議な感じがした。
カエサルというと日本人はローマ帝国の政治家・武将というくらいで
特に偉大な人物という印象は薄いかもしれない。
しかし欧州の人にとってはそれ以上の評価で、欧州を統一した偉大な人物というレベルらしい。
そうすると地獄の最深部で堕天使に責め苦を受ける人間は
天の王イエスと地の王カエサルを裏切った者達ということになるらしい。
そう説明されるとなんとなくではあるが、あーそうかと思う部分もある。

しかしダンテの時代から700年経って、地獄に落ちるような人間が更にたくさん現れたような気がする。
堕天使ルチフェルにくわえられる人間も、3つの口じゃ足りないくらいじゃないかと思う。

しかしこれでダンテ「神曲」が描く地獄を全て見て回った。
次回エピローグを少し書いて終わります。