らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【万葉集2011】12 春日なる三笠の山に

今週最も感じ入った歌は


春日(かすが)なる
三笠の山に
月の舟出(い)づ
みやびをの
飲む酒坏(さかづき)に
影に見えつつ



詠み人知らず



春日にある
三笠の山に
月の舟が出た
みやびな男たちが
飲む盃に
その影を映して



先日七夕の記事で、
自分は天の川をほとんど見たことがないという記事を書きました。
天の川がダメならお月さまがいるじゃないかというわけではありませんが、
今回はこの月の歌を選びました。

まさに日本人のみやびな心の表れみたいな歌ですね。
豪勢な山海の珍味などのご馳走がなくとも、
酒坏にゆらゆら映る月を肴にお酒を飲んで楽しむ。
ある意味、日本人って自然そのものを楽しむ天賦の才がある人々だと思います。

この歌は五七七五七七の形式をとり、
頭句(第一句)を再び旋(めぐ)らすことから旋頭歌(せとうか)と呼ばれるそうです。
上三句と下三句とで詠み手の立場がことなる歌が多いそうですが、
この歌も何人かで月見の宴をわいわいやってる時に詠み合って、
一つの歌として残されているものかもしれません。

今となっては詠んだ男たちの名も残っていない千年前の月見の宴の歌ですが、
宴のしっとりとした楽しさが伝わってくる素晴らしい歌だと感じ入りました。

なおこの歌で詠まれた月は、月の弦側(欠けた部分)を上にしてのぼる下弦の月で、
盃の酒にゆらゆらと映った半月の美しさを月の舟として歌ったものであろうとのことです。
そこまで考えて宴を開いていたとしたら…
千年前のみやびな人、おそるべしです。