らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【万葉集2011】9 近江の海夕波千鳥

今週自分が感じ入った歌は



近江(あふみ)の海
夕波千鳥(ゆうなみちどり)
汝(な)が鳴けば
心もしのに
古(いにしへ)思(おも)ほゆ



柿本人麻呂



近江の海の
夕波千鳥よ
おまえが鳴くと
心もしみじみと
昔のことが思われる



です。
今回着目したのは歌の内容よりも歌の音です。
選者の森博達さんは音韻学者で、
万葉集の歌を当時の発音、アクセントで音読する試みをされました。

氏によると、
万葉集の時代は平安時代以降確立した五十音ではなく全部で八十八音あったとのこと。
万葉文字では「オトコ」は「袁等古」、「ココロ」は「許許呂」と表記しましたが、
同じ「コ」でも異なる発音をしていたとの事です。

概略的にいいますと
カ行は8音で母音は8種類。
英語で例えるとわかりやすいのですが、
アとエの中間音や名古屋弁の「おみゃーさん」のようなつぶれたアのようなエの音などがあります。
サ行は子音の発音に変化があり、英語のsheのような音が含まれます。
驚きなのはハ行。当時はH音でなくP音で発音していたとの事です。
「廃品回収(はいひんかいしゅう)」は「ぱいぴんかいしゅう」と発音するのでしょうか。

それらを前提に今回の歌を音読すると全体的な印象としては、ニュアンスが中国語のような、
関西地域の方言のような、柔らかいような、腰から力が抜けるようなというような感じです。
でも全く異文化の未知の音というわけでなく、どこかで聞いたことがあるような音でもあります。
柔らかい中間音みたいな音があるため、今の標準語に慣れた耳には少々聞き取りにくい感じもあります。
前に記事で、方言には標準語と違い母音がたくさんあると述べましたが、
案外いいところついていたのかもしれません。
方言も中間音の母音など多いため、その地方の人でないと聞き取りにくいことがあります。
標準語で淘汰された音が地方では残っているということかもしれませんね。

今回の歌についても細かく説明がなされ、巧みに母音を使い分けて韻を踏んでいるとの事ですが、
なるほどと腹の底まですとんと納得するには少々勉強が必要なようです。

ただ当時の音で聞いた万葉集の歌は、
目で読むのとは違って、当時の空気に触れたような感覚を感じて、
万葉時代から吹いてきた風がさーっと頬をかすめるという感じといいますか、
非常に新鮮なものがありました。