らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「蜘蛛の糸」もたんもぞ編

ある日の早朝の事でございます。
もたんもぞという男が朝の散策をしようと
自宅マンションの廊下を独りでぶらぶら歩いておりました。
すると廊下にコガネムシが一匹、
ひっくり返って苦しそうに蠢(うごめ)いているのが目に留まりました。

もたんもぞはその時このように思ったのでございます。
あの芥川龍之介蜘蛛の糸」の極悪人カンダタでさえ、
一匹の小さな蜘蛛を救っただけで地獄から這い上がる蜘蛛の糸を与えられた。
ならば善良に生きてきた自分がコガネムシを救ったら
どんなに素晴らしいお返しがあるか想像すらできぬ。

そこでもたんもぞはコガネムシをつまみ上げると
道向かいの林の方に放り投げたのでございます。

すると自由を得たコガネムシは、大きな羽音をたてて林の方へ飛んでいきました。

もたんもぞは、万が一地獄に落ちた時はよろしく頼む。
現世であるならばコガネムシの名前にちなんで玄関に金塊を置いていってくれてもよいのだぞ。
と飛んでいったコガネムシに大きく手を振って見送りました。

すると何を思ったのでございましょう。
飛んでいったコガネムシが大きく右旋回して、こちらに戻ってきたのでございます。

そしてもたんもぞの足元に降り立つや、
みずからひっくり返って、先と同じようにじたばた蠢(うごめ)き始めたのでございます。


もたんもぞはこの一部始終をじっと見ていましたが、
コガネムシが再びひっくり返って蠢(うごめ)き始めたのを見て、
悲しそうな顔をしながらまたぶらぶら歩き始めました。

梅雨の湿った空気が緑の濃い匂いと混ざり合い、絶間なくあたりへ溢れて居ります。
もう横浜も日の出に近くなったのでございましょう。


おしまい