らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【映画】シャイン

 








 







































ゴールデンウィークも後半ですが、
どこにも出かける用事がないという寂しい方に(自分もそうですが笑)、
お勧め映画を紹介します。

今回紹介するのは「シャイン(Shine)」

豪州出身の実在のピアニスト、デビッド・ヘルフゴットの半生をモデルに、
苦難を乗り越え演奏家として再起するまでを描いた映画で、
主演のジェフリー・ラッシュはこの映画でアカデミー賞主演男優賞に輝きました。

この映画は彼の演奏を聴いた映画監督が10年近く断られ続けた末、
ついに映画化したものだそうです。
ちなみにヘルフゴッドの意味は「Help of God(神の加護)」。
映画の内容を暗示するような名前なので、
アマデウス(神に愛されし者)」のように主人公の名前が映画の題名でも良かったとは思います。

豪州に住むユダヤ人移民の子、デビッド・ヘルフゴットは、
幼い頃より厳格で音楽に造詣の深い父からピアノを教わっていました。
デビッドはめきめきと腕を上げ、数々のコンクールで入賞するようになります。
そんな彼に米国の音楽学校から招待が来ますが、デビッドの父は断ります。
手元から離さず家に閉じ込めて、
「自分が一番お前を愛しているんだ」「家から出て行ったら罰を受けるだろう」
「お前が出て行ったら妹達は兄を失う」「家庭を壊す気か」
など呪いとしか思えない言葉をデビッドに吐きますが、
実は父は第二次大戦時家族をナチス強制収容所で皆殺しにあっており、
それが強烈なトラウマになっていたのです。
 
圧倒的な被害者がそのトラウマにより今度は加害者になってしまう。
これほどの悲劇はありません。
デビッドの父はその桎梏から逃れられず、
結果最愛の息子の未来をも閉ざすような行動に出てしまったのです。

しかし青年になったデビッドは有力者の支援もあり、
遂に父から離れることを決意し、英国王立学校に旅立ちます。

名教授の下で研鑚をつむデビッドは、コンクール最終選考に残りました。
彼が選んだ演目は「ラフマニノフのピアノ協奏曲第三番」
余りにも壮麗で、究極の技巧を要求される至難の大曲。
「手に指が十本あるつもりで弾け!目隠ししても弾けるように!
そうすれば音楽は自然にハートからあふれ出す」
コンクールに向けて、壮絶な練習が始まりました。
デビッドが全身全霊でピアノと格闘するシーンは圧巻です。

教授は「素晴らしい演奏をした記憶は永遠に残る。今度は君の番だ。」と励まし、
彼をステージに送り出します。

鍛えに鍛えぬかれた指先でラフマニノフの音楽を全身全霊で表現するデビッド。
特に第1楽章の絡み合う旋律、嵐のようなカデンツァは怒涛の迫力と張りつめた緊張感を紡ぎ出し、
何回見てもまるで自分自身がその場にいるような感じにとらわれます。
彼の演奏は万雷の拍手でもって称えられます。

しかしその直後デビッドは張り詰めた心の糸が切れたように精神の病を発症し、
十年間精神病院で過ごすことを余儀なくされます。
少年時代父から受けた数々の仕打ちが、
デビッドの精神を細く脆いものにしてしまっていたのです。
その間ピアノを弾くことはもちろん、外出さえ許されません。
身元引受人も現れますが、うまくいかず居場所を転々とする日々が続きます。
 
そんな或る夜、デヴィッドはピアノを求めて、街をさまよい、あるレストランに飛び込みます。
最初はみすぼらしい闖入者を疎ましく思っていた人達も、
デビッドの弾くリムスキー=コルサコフ「くまんばちの飛行」を聴くや、
その素晴らしさに圧倒され、心から拍手を送ります。

このシーン、今までのデビッドの鬱積が一気に弾け飛ぶような超快演で、
このシーンにこの曲を持ってきた監督のセンスに唸らされます。

もう何ものにも脅かされることなく、
自由にピアノを弾ける場所を見出したデビッドは「Shine(=輝き)」を取り戻し、
自分の為、そして聴衆の為にピアノを弾き続けます。
そのことを知った父とも再会し和解。
ここで長年縛られてきた呪縛から父子は解き放たれました。

やがてデビッドは生涯の伴侶となるギリアンと巡り合い結婚。
彼女の深い愛に支えられながら演奏家として、
かつてデビッドに関わった人々の前でステージに立ち、温かい拍手に包まれるのでした。

最後のシーンでデビッドは言います。
「僕は生きている。そして人生は続いていく。永遠には続かない。
だけど捨てないで生きていく。それが人生だろ?」

デビッドの人生を一言で表した台詞です。

この映画は主人公の精神的疾患が見ていて痛々しくもありますが、
デビッドの明るさと画面の澄んだ青い色に救われる部分があります。

もしこの記事を読んで見てみたいと思った方は是非ご覧になって下さい。
クラシック音楽を全くご存知ない方でも楽しめる作品です。