らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「落ちていく世界」久坂葉子

彼女については全く未見でしたが、ウィキペディアで経歴を見ると「19歳で芥川賞候補となり、4度の自殺未遂の末、21歳の大晦日に阪急六甲駅で鉄道自殺」とあります。
なんとも短くも激しい人生を送った女性がいたものだと思います。

「落ちていく世界」はその改作が芥川賞候補になった作品です。

舞台は元華族の家庭。
父は喘息を患い、母は宗教にのめり込み、兄は肺結核で入院しており、弟は人妻と不倫。
家族は家財を売って生計を立てている。
主人公雪子は25歳で結婚も仕事もしておらず賭け事などして日夜ぶらぶら過ごしている。
要は落ちぶれた元華族の人々の生き様を描いた小説で、テーマとしては太宰治の「斜陽」に似ています。
当時斜陽族という言葉が流行ったほど人々の関心が高かったテーマのようですから彼女の目のつけどころは良かったのでしょう。
太宰「斜陽」より少し後の作品のようですが、彼女自身元華族の家の出であり独自の視点で書くこともできたことでしょう。

物語の文体は至って平明でシンプルな感じ。
そのため登場人物は淡々とした感じに描写され、いわゆる「いいとこの人」っぽさがよく出ていると思います。
そんな彼らが社会の変動に為すすべなく流されるまま流されていく様は淡々とした雰囲気なだけに逆に浮き彫りになっているような気がします。

そして占い師に主人公の未来を暗示させる描写も物語が冗長になるのを防いでおり、この作品を改作して「ドミノのお告げ」としたのは物語のターニングポイントとしての重要性からでしょうか。

最後に父が死んで主人公の女性がたとえ重い荷物を背負うことになろうとも自分の意志により自由に生きようと決意するところで物語は終わります。
物語としては良くまとまっており雰囲気も明治大正など戦前のものを引きずらずむしろ現代の作家のそれに近い新しい感覚を感じます。

しかし少々登場人物のキャラ付けが薄くて物語にのめり込めないというか主人公の心情に引き込まれるものが今ひとつというか悪い意味で品が良すぎるような印象も受けました。

結果彼女が稀代な才能を抱いたまま死んでしまったのか、既に限界を感じ行き詰まり自ら命を絶ってしまったのか、この作品だけでは正直判断しかねる部分があります。

これに関しては後日の宿題にしたいと思いますが、ぜひ他の作品を読んでこれに関しては後日の宿題にしたいと思いますが、ぜひ他の作品を読んでみたい、そう思わせる作家であることは確かです。