らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「蒲生氏郷」幸田露伴

 
最近の世は戦国武将ブームらしい。
人気があるのは伊達政宗真田幸村本多忠勝といったところか。
あと姫若子長宗我部元親などの名も挙がっているようだ。
しかし、今日読んだ蒲生氏郷の名前はとんと聞かない。
若くして病没してしまったし、
政宗の隻眼、真田の赤備え、本多の鹿角脇立兜などの
チャームポイントなども乏しいので、
ブームから外れてしまったのか。
しかし実際は伊達政宗に勝るとも劣らぬ文武兼備の戦国武将だと
自分は思っているし、作者の幸田露伴も思っているようだ。

この作品はいわゆる学術的資料をつきあわせた分析的なものでなく、
露伴自身も述べているように、
夏の縁側で団扇を扇ぎながら放談するような感じで非常に読みやすい。
露伴もかなり自由に書いており「蒲生氏郷」というよりは
政宗と氏郷」というような感じになっている。
その証左に、最初の1/3は政宗の話ばかりで氏郷は全く出てこない。
また氏郷についても、小田原戦役以降の大崎一揆の遠征の話がほとんどで、
それ以前の戦役については極めて簡略化されている。
しかし大崎一揆での政宗と氏郷の絡みをクローズアップすることで、
氏郷の人物像が浮き上がって、
最近出版されている戦国武将の伝記ものとは一線を画して
かなり面白く読める(自分は最近出版されているものも好きだが)。

この作品によると、政宗は傑物ではあるが、どちらかというと陰のイメージ。
策略家陰謀家という感じ。
少なくとも今日(きょうび)の、英語を発しながらバイクに似た馬を走らせる
アニメのような楽天的なタイプではない。

それに対して氏郷は陽のタイプで、
政宗が仕掛ける様々なトラップを見事に切り抜けていく痛快感爽快感がある。
しかし自分もあまり知らなかったが、
大崎一揆遠征は大変難儀なもので、一揆というよりはまさに戦争そのもの。
奥州の冬の寒さ、孤立無援の味方、四方全面の敵、敵か味方かわからぬ後方の伊達政宗など、
体力知力決断力勇気全てがうまく絡み合わないと平定できないいくさだったと思う。
それだけに文禄年間に40歳で亡くなったのは非常に惜しい。
もし関ヶ原で生きていればと想像するのは、後世の歴史愛好家としてはなかなか楽しい。
最後に蒲生氏郷はチャームポイントに欠けると言ったが、
彼の鯰尾の銀兜もなかなかチャーミングだと思う。
ぜひ彼のごとき戦国武将がいたことも歴女の皆さんに知って欲しいものだ。
 
 

 蒲生氏郷愛用の鯰尾兜いわゆる銀の鯰(なまず)の兜
どこが鯰なのかわかりますか?