らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【クラシック音楽】ラ・フォル・ジュルネ2019 神尾真由子 チャイコフスキーVn協奏曲
















ラ・フォル・ジュルネ最後の記事となります。
自分はバイオリニスト神尾真由子さんには大変な思い入れがあります。






今から十数年前、彼女が14歳の時、
武蔵野文化会館というところで初めて彼女のヴァイオリンを聴きました。
当時の彼女は、とんでもない才能を持ったヴァイオリンを弾く少女がいるということで
知る人ぞ知る存在でして、
チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲第1楽章が終わった時の
思わず会場から漏れた、おおっとも、ああっともつかない、どよめきは今も忘れられません。

一言で言うならば、その時の彼女の演奏は、ひとつの音符とて聴き漏らしてしまうのが

惜しいと思うほど魅力に満ちたもので、
決して聴き漏らすまいと、今振り返ってみると笑ってしまいますが、
全神経を集中して、全て聴き終わった後には、
どっと汗が噴き出すような緊張感で聴いたものでした。
https://blogs.yahoo.co.jp/no1685j_s_bach/10713946.html?type=folderlist

それから数年して、彼女はチャイコフスキーコンクールで優勝し、
成人となり、結婚し子供も生まれ、月日が流れて行きました。



そして今回のコンサートの曲目も、
あの時と同じチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲。

いやがうえにも期待は高まり、その思いを胸に、
ドキドキしながら曲が始まるのを待っていました。


が、・・曲が始まると?!
意外と普通。
確かに洗練されて綺麗で淀みのない音ともいえますが、
音はハートの表面をソフトに撫でてポロポロと落ちてしまい、心奥に突き刺さるような感じではない。
つまりは、聴いた瞬間は綺麗だなと感じても、
その音はどんどん流れて消え去ってしまい 心にさほど残らない。

有り体に言えば、神尾さん、丸くなりましたね。
それは決して表現の限界を極める芸術家への褒め言葉ではありません。

十数年前に聴いた、寸分の間でも耳を離せない白刃を振りかざすような

緊迫感、充実感、集中力といったものはあまり感じられませんでした。


最後の第三楽章、当時を彷彿とする瞬間がありましたけれども。

確かに美というのは唯一に存在するものでなく、
白刃を振りかざすような研ぎ澄まされた美もあれば、円熟したまろやかな美も存在します。

しかし今回の神尾さんの演奏に、
自分は新しい美を見出すことはできませんでした。

自分が初めて演奏を聴いた時から、素晴らしいキャリアを積んだ彼女は、
チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を何百回となく演奏会で弾いてきたことでしょう。
オーケストラに合わせるというよりも、私についてこいというような貫禄も垣間見え、
頼もしい限りでしたが、
ひょっとしたら僅かではありますが、ルーティンを感じてしまっている部分があるのかも。
一期一会。初めてこの曲に触れた時の新鮮さ、感動を音に乗せて演奏するというのは

非常に難しいことですが、ちょっとそんなことを感じました。

あと、女性演奏家というのは結婚や出産というイベントが

演奏スタイルに大きな影響を与えることがあります。


若い頃は雌豹が飛びかかるような切れ味鋭い演奏をした人が、
円熟のあるまろやかな演奏に変化するというような。
そういう意味で神尾さんも転換期を迎えているのかもしれませんね。

それでも今回初めて彼女の演奏を聴いた人はその才能にびっくりしたでしょう。
彼女の演奏を聴いてしまうと、
他の一流どころと言われるヴァイオリニストの演奏でも物足りなくて、
途中で聴くのを止めてしまうことがあります。

日本に彼女のような演奏家がいることは誇るべきことです。
実演で誰か一人聴くとすればと問われれば、自分はやはり彼女選ぶでしょうね。

こちらの演奏は、チャイコフスキーコンクールに優勝した直後のものです。
彼女の音楽が必ずしも入り切れていない感はありますが、
それでもその片鱗を垣間見ることができます。
よろしかったらぜひお聴きください。


https://youtu.be/WHUJ4tI16qM