らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「平成三十年」堺屋太一





この作品は、平成の時代が始まってまもなく朝日新聞に連載された
30年後の日本社会がどうなったかを予測した未来小説です。

著者は「峠の群像」などの作品で有名な作家堺屋太一氏。
堺屋氏は団塊の世代というネーミングの創造者もであり、
自身が政策立案に関与した官僚でもあり大臣まで務めた政治家でもあります。
そのデータの分析と独特で豊かな発想力は、
読んでいてなかなか面白いものです。

作品は平成30年、中堅官僚である木下家のストーリーから始まります。

堺屋氏はこの作品の登場人物のネーミングを戦国武将のそれに求めており、
織田さんやら柴田さんやら丹羽さんやら明智さんといった
おなじみの苗字の人々が登場します。
そのネーミングセンスは多少チープな感じがしないではありませんが、
堺屋氏の、改革が為されなかった平成30年は、
京都が足利将軍を傀儡とした三好氏によって事実上支配されていた、
そして同時に新興の織田信長が台頭してきた1560年前後の時代とパラレルに設定されています。
(物語は三好内閣治世下で新興勢力の織田氏の支援を受け、
足川氏(要は足利氏)が選挙戦を戦うというストーリーになっている)

その世界の中の平成30年は、国際競争力の低下で円安と国際収支の赤字化が進み、
不況と物価の上昇が同居するスタグフレーションの時代であり、
その結果消費税20%、1ドル230円、消費者物価は3倍、失業率は6.7%にも及び
年金支給率は67歳からという時代となっています。

では 実際はどうか。
現在消費税は8%であり、1ドルは113円。
消費者物価は20年前とほぼ変わらず、失業率は3%にとどまっています。
年金支給年齢は原則65歳からであり、
数値において著者の予測が的中したのは社会保険料が28%ということぐらいでしょうか。

堺屋氏の頭脳をもってしても未来の予測は困難だったのかとも言えますが、
政治経済に詳しい人ならば、
堺屋氏の見立てが実際はどこが違って、予測とは異なる結果ともたらしたのか
ということを探求するのもこの作品の読み方として面白いかもしれません。


しかしながら思わずドキッとするような的中したこともあります。

物語において日本有数の自動車メーカーが外資により買収される様が描かれていますが、
実際家電メーカーではありますが、
日本有数の企業であったシャープが台湾企業の資本下に入るということが現実となりました。
平成の初めにこのようになることを誰が想像することができたでしょうか。

また、政界では約15年周期で女性が活躍するという法則があるそうで、
1989年土井たか子、2002年田中真紀子、そして2017年の物語上においても政界で女性が活躍していますが、
現実社会においても小池百合子さん現象は記憶に新しいところです。


さて平成30年は明治維新から150年にあたります。
明治維新から75年後に太平洋戦争が勃発し、
それまでの世の中の仕組みは大きく変わりました。
それからまた等間隔の75年は平成30年頃にあたります。
平成30年日本の仕組みを変えるような大変革が外から否応なくやって来る。
というようなことを匂わせて小説は終わります。

現代の世界情勢を見ていますと、
今までの枠組みが変わってしまうことがあっても
おかしくないような事件の可能性に世界は満ち溢れています。

とにもかくにもどのような変化が起こるにしろ、
平成の世は30年で終わりを告げます。
ある意味、この小説、その平成30年を区切りとして題名にしている、
そのことだけでも結構鋭いことではないでしょうか。




なお、次回の記事では、
平成30年から更に20年が経過した社会。
その世界がどうなっているかを拙いながら自分なりに予測してみたいと思います。
よかったら皆さんも考えてみてください。


※ この作品は青空文庫には収録されていませんが、
図書館などで比較的簡単に借りることはできるものです。
興味のある方はお読みになってみてください。