らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

【芸能】俳優滝田栄さん講演







先日、縁あって、俳優滝田栄さんの講演に接する機会に恵まれました。

滝田栄さん、最近はテレビの露出も少ないことから、
40歳くらいを分岐点に、それ以下の年齢の人はご存じない事も多いようです。

一応、滝田栄さんのプロフィールを貼っておきますが、
http://www.takitasakae.jp/

自分の滝田さんの印象としては、やはり大河ドラマ徳川家康」です。



自分はオンタイムで見たわけでなく、後にビデオで見たわけですが、
山岡荘八原作の、生真面目で品行方正な家康。
その家康像は、三国志演義劉備みたいな聖人君子風で、
個人的にはあまり好みではないのですが、
滝田さんの清廉なキャラは、そんな家康にピッタリ合っていたように思います。

さて、最近の滝田さんは50代に入ってから、
インドに行ったり、仏像の制作に携わったりして、かなり仏教に傾倒されておられるそうで、
今回の講演のテーマも「よく生きる」という仏教の説話絡みのものだったのですが、
実際の話のメインは、時間が限られていたこともあり、
もっぱら大河ドラマ徳川家康」の話に費やされました。

曰く、俳優とはシャーマンみたいなもので、役に乗り移るものなのだけれども、
(この表現は言い得て妙だと感心しました。)
しかし、滝田さんは徳川家康だけは、その人物像がはっきりイメージできず、
最初役作りに大変苦労したそうです。

そこで、今川の人質時代、家康が過ごした静岡の臨済寺に、
役作りのため修行に行かれたとのことで、
それが後に滝田さんが仏教に傾倒するきっかけともなったわけですが、
それにしても家康を語る滝田さんは、
アイドルに憧れ、嬉々として、それについて語るファンに似ています。

滝田さんの家康像は、品行方正で無欲で清貧で、
神仏を尊び、慈悲に満ちた世の中を作り出すために生涯堪え忍び、
最後に打ち勝ち、二百数十年の太平を創り出した人物。

つまりは、山岡荘八の小説そのもので、
ひいては自分が演じた家康そのものであるわけです。

それからすると、津川雅彦さん演ずる狸親父風の小ずるい家康は、
滝田さんは絶対認められないでしょう(笑)

しかしながら、滝田さんの講演を契機に、
徳川家康という人物について、改めて考える機会を得、自分なりにじっくり考えますと、
家康の過ごした5歳から19歳までの十数年の人質生活。
それはいつ殺されてもおかしくない、死と隣り合わせの年月だったはずです。
人間いつ死ぬかわからないのであれば、刹那的になっても仕方ないところですが、
徳川家康は自己の人生においてじっくり勝機を待って天下をその手中にした人物です。
それだけでも尋常ならぬ只者でないことは確かでしょう。

そして、曲がりなにも二百数十年間、戦の無い世の中を造り上げたことも確かなことです。
それを太平と呼ぶか、停滞と呼ぶか、
また、それが民百姓のために為されたのか、徳川のために為されたのか、
意見が分かれるところではあるでしょうけれども。

なぜ山岡荘八はこのような徳川家康像を描いたのか。
それには執筆当時の時代背景があるようです。

当時日本は戦後の混乱期にあり国土は荒れ果て、人々は戦乱に飽いて心から太平の世を願っていた。
豊臣政権末期というのは戦禍が東アジアにまで及び、
ある意味、太平洋戦争末期と同じような状況下にあったわけです。
それを、外から退き、内の乱を治め、二百数十年戦乱のない世の基台を造った。
この小説は徳川家康という人物の実像に迫ると言うよりも、
そのような長きにわたって平和を築く理想の人物を、徳川家康に仮託して創造したという感があります。

滝田栄さんは俳優業の一線から退き、
仏像を彫りながら世の中の安寧を願う生活をしていらっしゃるわけですから、
滝田氏の平和を願う心が、山岡荘八が造り出した平和を具現化する理想像たる人物にシンクロしている。
そんな感じがします。

そのような徳川家康について、
終始、少年のような熱っぽさをもって語る滝田さんが非常に印象的でした。


なお、今回の講演とほぼ同内容の記事がこちらに挙がっており、
興味のある方はご覧になってみてください。

http://www.nhk.or.jp/archives/sp/search/special/detail/?d=selection128#feature

http://www.chugainippoh.co.jp/interviews/hot/20160706-001.html

http://akitayuimakai.blogspot.jp/2009/07/blog-post_30.html?m=1